人混みで彼女の異変に気づいた俺が、何も言わずに手を引いてしまった話
先に気づいてしまった異変
半年前から彼女が楽しみにしていた花火大会でした。会場に着いた頃は、屋台を回る足取りも軽かったはずです。肩がぶつかるたびに顔をしかめていた自覚はあります。人混みが苦手なのは本当です。ただ、この日気になっていたのは自分のことではありませんでした。
屋台の明かりに照らされるたび、彼女の顔は来たときと別人のように白く見えます。「どうしたの」と聞かれて、「いや、なんでもない」と返したのは俺の方でした。確信のないまま騒がせたくなかったからです。
説明より先に体が動いた
周りは肩がぶつかるほどの人でした。何度も人波を目で追っていたのは、嫌気が差していたからではなく、彼女を連れて抜けられる道を探していたからです。ここで理由を伝えれば、彼女は大丈夫だと笑って残ろうとする。そう思った瞬間、説明より先に体が動きました。
「帰るぞ」返事を待たずに手首を引いて、人の少ない方へ抜けました。「人混みが嫌なら、最初から来なければよかったじゃない」背中にぶつかる声はもっともでした。それでも、あの場に立ち止まる方が怖かったのです。
ベンチで打ち明けた理由
救護所の近くのベンチに座らせて、自販機まで走りました。水を持って戻ると、彼女は自分の手のひらに視線を落として、呼吸を整えている途中でした。隣にしゃがんで、ようやく言えました。
「ごめん。顔、真っ青だったから」
彼女は目を丸くして、それから小さく息を吐きました。
そして...
「先に言ってよ」と言われて、「言っても、我慢して残るだろ」と返すのが精一杯でした。強引だった自覚はあります。翌年は土手の上から、2人で最後まで花火を見ました。隣の横顔を、今度は確かめるように見る必要がありませんでした。
(20代男性・会社員)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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