恋人の分まで几帳面に分けていた僕が、過去に言われた一言から逃げられずにいた話
割り勘は、僕なりの誠実さだった
彼女と付き合って半年。デートのたびに、僕は会計をきっちり分けてきました。彼女が「今日は出すよ」と言ってくれても、自分の分は自分で払うと決めていました。
どちらかが多く出せば、どちらかが借りをつくる。その小さな歪みが、いつか関係をゆがめてしまう気がしていたのです。だから1円のずれもないように、金額をメモに残し続けました。
それが彼女を大切にすることだと、疑いもしませんでした。
伏せたスマホと、彼女の顔
あの記録を彼女に見られたのは、僕の部屋でのことでした。ロックもかけずにテーブルに置いていたスマホは、メモアプリが開いたままで、彼女の視線がそこへ向いたのがわかりました。
日付と金額の列、そして彼女の名前。咄嗟にスマホを伏せてしまいました。
「これ、何?」
彼女の声に、僕は取り繕うように答えました。
「君の分はきっちり分けてあるから」
さらに「損はさせたくないんだ」と重ねました。公平にしているだけだ。そう言いながら、彼女の表情がこわばっていくのが見えました。でも、なぜ自分がここまで分けることにこだわるのか、その本当の理由を、僕はまだ口にできずにいました。
昔、お金で繋ぎ止めていると言われた
前に付き合っていた人に、こう言われたことがあります。「私のこと、お金で繋ぎ止めてるつもり?」よかれと思って出していたお金が、いつのまにか相手を縛る道具になっていたのだと、突きつけられた一言でした。
それ以来、僕はお金で誰かに引け目を感じさせるのが怖くなりました。だからきっちり分ける。貸しも借りもつくらない。そうすれば、もう同じことを言われずにすむと思っていたのです。
彼女に改めて問われたとき、僕はやっと打ち明けました。「昔、お金のことで責められたことがあって。それが怖くて、つい分けてた」言いながら、これは彼女を守る計算ではなく、自分を守るための計算だったのだと、ようやくわかりました。
そして...
公平であることに、僕はずっと逃げ込んでいたのだと思います。数字をそろえておけば、心まで差し出さなくても許される気がしていました。
けれど彼女が欲しかったのは、きっちり分けられた割り勘ではなく、僕がなぜそうするのかという、ただの正直な言葉だったのでしょう。
あのメモアプリは、もう閉じることにします。次に会ったときは、計算の話ではなく、自分の弱さのほうを、彼女にちゃんと聞いてもらおうと思います。
(20代男性・エンジニア)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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