妻が寝込むたびに残業した俺が、帰り道にいつも寄っていた場所
「無理しないで」の裏側
俺の実家では、熱を出したら各自で治すものでした。母親が寝込んでも父親が看病する場面を見たことがありません。だから妻が「今日、ちょっとしんどいかも」と言ったとき、俺の口から出たのは「無理しないで」だけでした。
何かしなければとは思うのです。でも何をすればいいかわからないし、移って自分まで寝込んだら元も子もない。そう言い聞かせて仕事に逃げました。「今日少し遅くなる」と妻に送って、デスクに向かっている方が楽だったのです。
ドラッグストアの駐車場
ただ、帰り道は別でした。妻が体調を崩した日の帰り、俺はいつもドラッグストアに寄りました。スポーツドリンクとゼリー飲料。棚の前で選ぶのには慣れていました。けれど妻に「買ってきたよ」と声をかけることができません。
帰宅すると、妻はたいてい寝ていました。買い物袋から中身を出して、冷蔵庫の奥に並べます。妻がそれを見つけたかどうか、聞いたことはありません。聞けば、自分がそばにいなかった時間の話になる。その会話から逃げていたのだと思います。
「もういいよ」の重さ
何度目かの「今日少し遅くなる」を送った日、妻から「また遅いの」と返ってきました。「ごめん、もう少しかかる」と打ち返すと、少し間が空いて届いたのが「もういいよ」でした。
その一言を読んだとき、俺はドラッグストアの駐車場でエンジンを切ったところでした。妻のメッセージを読み返しながら、気づいたことがあります。帰り道にゼリーを買うことで、自分の中のつじつまを合わせていただけでした。家にいなかったことは、ゼリーでは埋まりません。
そして...
その日、俺はドラッグストアに寄らず帰りました。玄関を開けると寝室は暗く、妻の寝息が聞こえます。声をかけようとして、やめました。何と言えばいいのか、やはりわかりませんでした。
冷蔵庫を開けると、先週並べたゼリー飲料がそのまま残っていました。「無理しないで」の代わりに何を言えばいいのか、まだ見つかっていません。ただ、ゼリーを並べるだけでは届かないのだと、やっとわかりました。
(30代男性・営業職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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