休日出勤だと嘘をついた俺が、その日ベンチで撮った一枚
父から届いた連絡
父からメッセージが届いたのは、彼女と家電を見に行く予定の少し前でした。仕事の都合で遠くへ移ることになった。その前に1度だけ会えないか。文面は短いものでした。
両親は俺が小さい頃に別々に暮らすようになりました。父と会うのは、決まった日だけ。その面会も、いつからか途切れていました。
彼女には、家族の話をほとんどしていませんでした。聞かれても曖昧に流してきたので、今さらどう説明すればいいのか分かりませんでした。迷った末に、俺は「急に休日出勤が入った」と送りました。
ベンチに残した写真
待ち合わせの公園に着くと、父は先にベンチに座っていました。何年も会っていない相手と向かい合っても、近況の話は長く続きません。
自販機で買った缶コーヒーだけが、昔と同じでした。子どもの頃、父は面会の日になると、決まってそのコーヒーを買っていました。俺は飲むわけでもないのに、父の手元にある缶を見るのが好きでした。
帰る前、ベンチに並んだ2本の缶を写真に撮りました。父との時間で持ち帰れそうなものが、それくらいしか思いつかなかったのです。家族用のフォルダへ移したつもりでしたが、選んでいたのは彼女との共同アルバムでした。
先に消してしまった写真
彼女から「出勤おつかれさま。今日も忙しかった?」とメッセージが届きました。俺はアルバムの通知に気づかないまま、「うん、バタバタだった」と返しました。その時点で、嘘は増えていました。
週末、部屋に来た彼女は、グラスに触れる前にアルバムの画面を見せました。「この写真、誰と行ったの」
俺は説明するより先に、写真を消しました。言い訳を考えたわけではありません。見られたことに焦って、消す動きだけが先に出ました。彼女がバッグを持ったとき、ようやく「父親と会ってた」と話しました。
そして...
父から連絡が来たこと、会う日が彼女との予定と重なったこと、どう話せばいいか分からず休日出勤だと嘘をついたこと。順番に話すと、彼女は「嘘は、もうなしにして」と言いました。
その後、あの写真をもう1度アルバムに戻しました。今度は間違いではありません。家族の話から逃げずに、2人で話した記録として残すことにしました。
話してしまえば、数分で済むことでした。俺はその数分を避けたせいで、彼女に何日も不安を渡しました。次に言いにくい話ができたときは、写真を隠す前に、まず自分の言葉で話したいです。
(20代男性・営業職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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