彼女のお祝いだけ最後まで取っておいた僕が、薄くなる笑顔で気づいた失敗
いちばんの報告を、雑に流したくなかった
その日の集まりは、僕が彼女を連れていったものでした。彼女は長く目指していた資格に合格したばかりで、僕はそれを心から誇りに思っていました。だからこそ、順番に回ってくる近況報告の中に混ぜて、軽い相づちで流されてしまうのが惜しく思えました。彼女の番が来たとき、僕は「それはあとにしよう」と口をはさみました。遅れて来る彼女の親友がそろってから、いちばん良い形で伝えたかったのです。台所には、店で受け取ってきたケーキを隠してありました。
大丈夫、と言った彼女を信じてしまった
彼女は「私は大丈夫、先にどうぞ」と笑ってくれました。その言葉に甘えて、僕は予定どおり報告を先へ送り続けました。けれど報告がもう一巡するころには、彼女の口数が減っていました。料理に伸ばしかけた手を引っ込める仕草が増え、相づちの声も小さくなっていく。あとで全部わかるから、と僕は自分に言い聞かせました。彼女の表情よりも、自分で組み立てた段取りのほうを信じてしまったのです。
立ち上がってから、見えてしまったもの
彼女の親友が玄関を開けたのを合図に、僕は立ち上がりました。「今日、一番伝えたかったのはこれです」と切り出して、隠していたケーキを運び、彼女の合格を全員に伝えました。あちこちで拍手がはじけ、グラスを合わせる音が続きました。
けれど顔を上げた彼女は、口元だけで笑っていました。完璧な見せ場を整えるあいだ、ずっと彼女をひとりにしていたのです。集まりに何度も、一言、「最後まで待ってて、いちばん良い形で言いたいから」と耳打ちさえしていれば、彼女は同じ時間をまったく違う気持ちで過ごせたはずでした。秘密にしておくことと、待っていてほしいと頼むことは、彼女にとってまったく別のことだったのに。
そして...
帰り道で、僕はしばらく言葉を探しました。完璧な渡し方を選ぶより先に、彼女の顔でただ「すごいね」と言えばよかった。せめてあの席に着く前に、一言、最後に取っておきたいと伝えておけばよかった。歩きながら、僕はようやく「ごめん、ずっとひとりにさせてた」と口にしました。
彼女は首を振って、「ちょっと寂しかった、ほんとはね」と短く返してくれました。その短い言葉の中に、まだ消えていないものがあるのが、はっきりわかりました。次に彼女を祝うときは、サプライズの段取りより先に、まず彼女に話を通します。
(20代男性・営業職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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