「机だけにしよう」冷たく言った僕が、本当はその机を彼女のために選んでいた話
本当はずっと前から
彼女が僕の部屋で過ごす時間が増えてから、ずっと気になっていたことがありました。彼女はいつもキッチンのテーブルで資格の勉強をしていて、書類を広げるたびに窮屈そうにしていたのです。自分の机があれば、もっと落ち着いて勉強できるはず。そう考えて、僕は窓際の一角を彼女の場所にしようと決めていました。荷物を片付けて、机をひとつ置けるだけのスペースをつくって。言葉で伝えるのが昔から苦手な僕にとって、それは精いっぱいの気持ちの伝え方のつもりでした。彼女に、ここにいてほしい。そう思っていたのです。
言えなかった理由
家具店では、まっすぐ机のコーナーへ向かいました。彼女が二人がけのソファを指さしたとき、僕は内心あせっていました。ソファまで買えば予算が足りなくなりますし、何より窓際のスペースに置けるのは机だけだと、前もって測っていたのです。それに、片付けた一角を見せて驚かせたいという気持ちもありました。だから僕は「それはいいかな。机だけにしよう」と短く返しました。彼女が「机だけでいいの?」と聞いてきても、「うん。それだけでいいよ」とそっけなく答えてしまったのです。彼女の表情が曇っていくのはわかっていました。それでも、あとで説明すればいいと自分に言い聞かせて、その場では何も明かしませんでした。
切り出せなかった本心
帰り道、僕はうまく話を切り出せずにいました。本当はすぐにでも、さっきの机は君のために選んだんだと伝えればよかったのに、一度黙ってしまうと、どう口を開けばいいのかわからなくなっていたのです。隣を歩く彼女がうつむいているのには気づいていました。それでも前を向いたまま、僕の頭の中は、部屋に着いたらどう切り出そうかでいっぱいだったのです。驚かせたいという小さな見栄が彼女をこんなにも不安にさせているとは、このときの僕はまだ気づいていませんでした。
そして...
部屋に戻ってすぐ、僕は窓際の一角を彼女に見せました。「ここ、君の場所にしようと思って」。そう言って机を組み立てはじめると、彼女の表情がやわらいでいくのがわかりました。よかった、と思うと同時に、申し訳なさが込み上げてきました。たったひとこと、机を選ぶときに理由を伝えていれば、彼女をあんなに不安にさせずにすんだはずです。気持ちは、形にするだけでは足りない。きちんと言葉にして渡さなければ、まっすぐには届かないのだと、このとき初めて思い知りました。次に何かを贈るときは、サプライズより先に、ちゃんと言葉で伝えようと思います。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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