「エチケットでしょ?」人混みでスプレーを止めない男性→ひとりがしゃがみ込んだ瞬間に形勢逆転
人混みに広がっていく甘い香り
真夏の野外フェスは、開演前から大勢の人で埋まっていました。ステージ前に近づくほど人と人の距離は近くなり、誰もが汗ばんでいます。私もタオルで首元をぬぐいながら、好きなアーティストの登場を待っていました。
そんな中、すぐ前にいた男性が、ポーチから取り出した制汗スプレーを何度も吹きつけ始めたのです。一度や二度ではありません。首筋、腕、シャツの中にまで、繰り返し噴射しています。
風のない人混みでは、その甘くて強い香りが行き場をなくし、まわりに濃くたまっていきました。近くにいた人が、さりげなく口元を手で覆い始めていました。
「エチケットでしょ?」という言い分
私のとなりにいた女性が、つらそうに眉を寄せて口元を押さえていました。これ以上はよくないと思い、私は前の男性に声をかけました。
「すみません、スプレーを少し控えてもらえませんか」
できるだけ角の立たない言い方を選んだつもりでした。男性は振り向くと、当然のような顔でこう言いました。
「エチケットでしょ?」
さらに「汗のにおいよりいいでしょ」と続けます。悪いのは汗をかいているこちらのほうだと言わんばかりの口ぶりでした。となりの女性はうつむいたまま、とうとうその場にしゃがみ込んでしまったのです。
動き出した、まわりの人たち
その瞬間、まわりの空気が変わりました。「こちら、日陰が空いてますよ」と、後ろにいた人がすぐに場所を空けてくれます。別の人は持っていたうちわで風を送り、「お水、飲めそうですか?」とペットボトルを差し出しました。
誰かがスタッフを呼びに走り、人垣がさっと割れて、風の通り道ができていきます。さっきまで言い返していた男性は、その光景の前でスプレーを持つ手を下ろしました。
「エチケットでしょ?」という言葉は、もうどこにも響きません。人を思いやるというのは、正しさを口にすることではなく、目の前の誰かに気づくことなのだと、その場の全員が体で示しているようでした。
そして...
しゃがみ込んでいた女性は、日陰でしばらく休むうちに少しずつ顔を上げ、まわりに何度も頭を下げていました。大ごとにならずにすんで、本当によかったと思います。
あの男性も、最後は黙ってその場を離れていきました。彼を責めたい気持ちより、不思議とすっきりした気持ちのほうが残っています。
マナーやエチケットという言葉は、自分の正しさを守る盾ではないはずです。隣にいる人がどう感じているかにそっと目を向けること。その小さな気づきこそが、人混みの中でいちばん大切なのだと、これからは私も忘れずにいたいと思いました。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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