二人で選んだペアマグを片方だけ持ち出した彼。残されたマグカップを見つめ、彼の心が遠くに思えた話
二つで一つだったはずのマグ
同棲を始めた記念にと、二人で雑貨屋を回って選んだペアのマグでした。彼は紺色、私はベージュ。色は違っても、同じ形の、私たちだけのお揃いです。目を覚まして最初の一杯を、それぞれのマグで飲むのが、いつのまにか二人の習慣になっていました。
だからこそ、棚に片方しかないことが、どうしても気になってしまったのです。帰宅した彼に、できるだけ軽い口ぶりで聞いてみました。
「ねえ、ペアのマグ、片方どこにいったの?」
彼は荷物を置きながら、こちらを見ずに答えました。
「ああ、それ、職場に持っていった」
「使いやすいんだよ」のひとこと
予想していなかった答えでした。あのマグは、私たちが二人で選んだもの。片方だけ持ち出すなんて、考えたこともなかったのです。
「二人で選んだやつなのに」
そう口にすると、彼はやっと振り返って、少しだけ面倒くさそうに言いました。
「使いやすいんだよ」
理由はそれ以上、説明してくれません。私が大切にしていたものを、彼はただの使いやすい食器としか思っていなかったのでしょうか。お揃いだと喜んでいたのは、私だけだったのかもしれない。そう思いながら、私は小さくうなずいて、その場を離れました。
残されたベージュのマグ
それから、棚に一つだけ残ったマグを見るたびに、いろんな想像が膨らんでいきました。気持ちが冷めてきたのかもしれない。私とのお揃いをわざわざ職場に持っていって、何か別の意味があるのかもしれない。考えれば考えるほど、悪い方へと転がっていきます。
本当は理由を聞きたいのに、また「使いやすいんだよ」と返されるのが怖くて、結局聞けずにいました。
私は自分のマグにコーヒーを注ぎました。一つだけのマグは、いつもより少し重く感じました。
そして...
お揃いのものが片方になっただけで、こんなに心細くなるなんて、自分でも驚いています。きっと彼にとっては、本当にただのマグなのでしょう。それでも私は、二人で選んだあの時間まで軽く扱われた気がして、まだ少し引きずっています。
今度こそ、ちゃんと聞いてみようと思います。あのマグを職場に持っていった本当の理由を。彼が何を考えていたのか、私はまだ何も知らないのだと、残されたマグが教えてくれた気がしました。
(20代女性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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