彼女が「残されるのが怖い」と漏らしてから、僕は空になった皿を撮り続けています
「残されるのが怖い」と言った彼女
付き合いはじめてまもないころ、彼女が初めて手料理をふるまってくれたことがありました。テーブルに料理を並べながら、彼女はどこか不安そうでした。そして、ぽつりと「残されるのが怖い」とこぼしたのです。
くわしくは語りませんでしたが、以前に作った料理を残されて、つらい思いをしたことがあるようでした。その横顔が忘れられなくて、僕は心に決めました。彼女のごはんだけは、最後のひと口まで必ず食べ切ろう、と。
空になった皿を残す理由
それからというもの、僕は彼女のごはんを食べ終えるたびに、空になったお皿を写真に撮るようになりました。ひと口も残さず食べた証を、自分なりに記録しておきたかったのです。いつか彼女に見せて、ちゃんとぜんぶ食べてきたよと伝えられたらと思っていました。
食べ終わると、僕はいつも「全部食べたよ」と口にします。けれど料理そのものをほめる言葉は、照れくさくて口にできずにいました。だから皿を空にすることと、その写真が、僕にとっての精いっぱいの「おいしかった」だったのです。
「なんとなく」としか言えなくて
ある食事のあと、いつものように空のお皿を撮っていると、彼女が「なんで空っぽのお皿を撮ってるの?」と聞いてきました。本当の理由を打ち明ければよかったのに、写真にこめた気持ちを口にするのが急に気はずかしくなって、僕は「いや、なんとなく」とごまかしてしまったのです。
その時、彼女の表情がくもったのが見えました。せっかく作った料理には目もくれず、空の皿ばかり気にする男。彼女の目に、自分がそう映っていたのだと、ようやく思い至りました。よかれと思って続けていたことが、彼女をさみしくさせていたのです。
そして...
カメラロールには、彼女と過ごしてきた数だけ、空になったお皿の写真がたまっています。僕はこれを、ひとりで抱えこんでいるべきではなかったのだと思います。今度ごはんを作ってくれたら、この写真のことをちゃんと話そうと決めました。
「残されるのが怖い」と言った言葉を、僕はずっと覚えていたこと。空っぽのお皿は、君の料理が好きだという、僕なりのいちばん不器用な伝え方だったこと。次は写真ではなく、言葉にして渡したいのです。
(20代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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