「無理してお父さんと呼ばなくていい」と言った継父→運動会で響いた息子の声
「ヒロくんでいいから」と言った夫
再婚した日、夫は息子の前にしゃがんで言いました。
「無理してお父さんと呼ばなくていいよ。ヒロくんでいいから。」
息子はまだ小学校に上がる前で、こくりとうなずいただけでした。前の夫を病気で亡くしたのが、息子が5歳の時。新しい夫はそのことをずっと気にかけていて、息子に何かを強いることを避けていたのです。
息子は本当に「ヒロくん」と呼び続けました。私は最初、それでいいのかと迷ったこともあります。けれど夫が「これでいい」と笑って言うので、私もそう思うようにしてきました。
息子と夫は仲のいい兄弟のような距離感で、いつも一緒にゲームをしたり、図書館に行ったりしていました。
バトンが落ちた瞬間
息子の運動会のリレーが始まりました。息子は2位でバトンを受け取るはずでした。けれどバトンが手から滑り落ち、息子は一度立ち止まってしまったのです。私の隣で、夫が思わず「拾え!」と叫びました。普段あまり大声を出さない人だったので、私は思わずその顔を見ました。
息子はバトンを拾い、走り出しました。3位、4位と順位を落としていきます。それでも息子はあきらめずに、必死で前を追いかけていました。私は声をかけることもできずに、ただ息子の姿を目で追っていました。
最後のコーナーを曲がったところで、息子は前の走者を一人抜きました。3位です。ゴールラインまであと20メートル。息子の視線が、観客席の私たちに一瞬向けられた気がしました。
校庭に響いた一言
その瞬間、息子が大きな声で叫びました。
「お父さん!!見てて!!」
ゴールテープが切られる音と、ほぼ同時でした。校庭中の保護者がこちらを向いたのが分かりました。私の隣で、夫の手から双眼鏡がするりと落ちて、肩からぶら下がりました。
夫の顔を見上げると、夫は前を向いたまま、目だけを何度もまばたきしていました。
そして...
帰り道、息子は照れ隠しなのか、ずっと前を歩いていました。私と夫が並んで歩く後ろ姿を時々振り返って、また早足で先に行ってしまいます。
「今のはね、たまたまだから」
家の前で息子がぽつりと言いました。夫は「ありがとうな」とだけ返しました。
息子の中で、いつ何が変わったのかは私にも分かりません。ただあの一言は、夫が2年間ずっと待っていたのに、待っていないふりをしてきた言葉だったのだと思います。
(30代女性・看護師)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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