再婚2年「ヒロくん」と呼ばれてきた継父の僕。運動会のゴール前で聞いた一言
「呼ばなくていい」と言った日
再婚した日、僕はあの子の前にしゃがんで言いました。
「無理してお父さんと呼ばなくていいよ。ヒロくんでいいから。」
あの子の実のお父さんは病気で亡くなったと聞いていました。5歳の子に、急にもう一人の「お父さん」を受け入れろというのは無理な話だと、僕は本気で思っていたのです。
ただ、本音を言えば少しだけ怖かったのも事実です。「呼んで」と頼んで断られるのが怖かった。だから先に「呼ばなくていい」と言ってしまえば、断られた気持ちにならずに済む。そんな自分の弱さを、今ならよく分かります。
バトンを落とした瞬間
そんな息子の運動会でリレーが始まりました。あの子はバトンを受け取り損ねて、一度立ち止まってしまいました。気がつくと、僕は観客席で「拾え!」と叫んでいました。妻が驚いた顔でこちらを見たのが分かりました。
あの子はバトンを拾い、走り出しました。4位まで順位を落としても、あきらめずに前を追いかけていました。あの子の姿が、自分が子どもの頃に運動会で転んで泣いた日と重なって見えたのです。
最終コーナーであの子が一人抜きました。3位です。ゴールまであと少しというところで、あの子がこちらを見たような気がしました。
叫んだ言葉
「お父さん!!見てて!!」
あの子の声が、校庭に響き渡りました。ゴールテープを切るあの子の姿が、双眼鏡の中でぼやけて見えました。レンズが汚れているのかと思って外しましたが、汚れていたのは僕の目のほうでした。
妻が僕を見上げているのが視界の端に分かりました。けれど僕は前を向いたまま、何度もまばたきを繰り返すことしかできなかったのです。
そして...
帰り道、あの子はずっと前を歩いていました。時々振り返ってこちらを見ては、また早足で先に行ってしまいます。家の前であの子がぽつりと言いました。
「今のはね、たまたまだから」
僕は「ありがとうな」とだけ返しました。それ以上の言葉は、まだ僕にはふさわしくないと思ったからです。2年間ずっと待っていたつもりはありませんでした。でもあの一言を聞いた瞬間に分かったのです。僕は本当は、ずっと待っていたのだと。
(30代男性・システムエンジニア)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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