親戚の集まりで妻に投げられた一言。俺がリュックから一冊のノートを出した本当の理由
あの伯母さんがいる席に向かう道で
俺の伯母は、父の姉にあたります。昔の頃から、親戚の集まりがあるたびに、母が伯母から料理のことで何かしら言われるのを見てきました。
「結婚したのに、ちゃんと作ってあげてるの?」「うちの弟は職場で大変なんだから」
母はそのたびに、笑顔のまま視線を落とすばかりでした。俺はまだ幼く、隣に座っていても、母を守る言葉を一つも持っていなかったのです。3年前、妻との結婚が決まったとき、いつかきっと妻にも同じ瞬間が来るかもしれないと、頭の隅でずっと考えていました。
お茶が運ばれてきたところで、伯母が口を開いた
会食が始まって、ちょうどお茶が配られた頃でした。伯母が湯呑みを手に持ったまま、向かいの妻に視線を合わせ、笑いながら言いました。
「あなた、夫のごはん作らないの?共働きだから?」
妻が伯母の問いかけに返事ができないでいるのが、隣にいる俺にもわかりました。妻は何も悪いことをしていないのに、座敷の真ん中で晒されているような状態に置かれてしまったのです。母が湯呑みを置く小さな音が、向かい側から聞こえた気がしました。
リュックの一番奥から、青いノートを取り出した
壁際に置いていた自分のリュックを開けて、青いノートを取り出しました。3年間、出張のときも休日の外出のときも、ずっとリュックの底に入れていたものです。「これ、俺が書いてるレシピノートなんです」ページを開くと、付箋と書き込みが伯母の目にも見えるはずでした。妻が忙しい日は俺が作るんで、勝手にメモして増やしてるんですよ」
伯母は表紙を見つめて「あら……そう」とだけ返し、湯呑みに口をつけました。母が、湯呑みを両手で包み込むようにして、ほんの少しだけうなずいているのが視界の端に映りました。
そして…
帰りの電車のなかで、妻が「あのノート、いつから書いてたの?」とたずねてきました。「結婚した時から少しずつ」と答えてから、本当のことを言うかどうか、迷いました。
けれど今日この日に言わないと、たぶんずっと言えない気がして、続けて口にしたのです。
「昔の頃から、お母さんが伯母さんに同じこと言われるのをずっと見てて、何もできなかったから」
今日、伯母にノートを開いて見せたとき、俺自身が、ようやく少しだけ動けたような気がしました。妻を守るためのノートだったはずなのに、結局、過去の自分も助けていたのかもしれません。
妻は窓の外を見つめながら、俺の手の上に、自分の手をそっと重ねてくれました。
(30代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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