妻のベランダ菜園を「コスパが悪い」と切り捨てた俺。3歳の娘がトマトを頬張った日の話
合理的な俺と、不合理な菜園
ある日、妻がプランターと苗を抱えて帰ってきました。レシートに目を落としながら、俺は思わず言ってしまったのです。
「家庭菜園なんて買ったほうが安い」
さらに「コスパが悪い」「ベランダの場所も無駄になるし」と、つい続けていきました。スーパーに行けば、トマトもきゅうりも100円台で買えます。育てる時間、水代、肥料代、毎朝の手間。仕事で数字を扱う身としては、明らかに割に合わないと判断したのです。
水やりを忘れて萎れた葉を見つけるたび、「ほら、続かないでしょ」と冗談まじりに笑いました。妻が小さく口を結ぶ表情を、俺は本気で気にしていませんでした。
娘がベランダに走るようになった
不思議だったのは、娘が毎朝ベランダに走るようになったことです。「葉っぱ大きくなった」「お花咲いた」と妻に報告し、雨の日には窓越しにじっと見つめている。
保育園から帰るたびにプランターを覗き、「トマトさんまだ赤くないね」と話しかける娘の姿を、俺はソファでテレビを見ながら横目で眺めていました。
野菜嫌いの娘が、口に入れもしない野菜になぜ夢中になるのか、俺には理解できなかったのです。ただ、妻と娘が並んでじょうろを傾ける朝の景色だけは、なぜか目が離せない時間でした。
娘がトマトを頬張った朝
2か月が過ぎた朝のこと。「ママ、トマトさん赤くなった!」と娘の声が響きました。リビングから出ていくと、プランターには小さな赤い実がひとつ実っていたのです。
妻と娘が一緒に収穫したトマトを、娘はそのまま丸ごと口に運びました。普段はトマトを見ただけで顔をしかめる娘です。それが、ほおをふくらませながら「ママ、おいしいー!」と笑ったのです。
俺は、ただ立ち尽くしていました。「コスパが悪い」と笑っていた自分の声が、頭の中で何度も繰り返されていました。トマト1個の値段では測れないものが、たしかにそこにあったのです。
そして...
次の週末、俺は一人でホームセンターに行きました。きゅうりの苗を一鉢、迷いながら選んで持ち帰ったのです。
妻と娘が驚いた顔で見ているのに気づいて、ぶっきらぼうに言いました。「次は俺が育てる」
後ろから娘が「パパも一緒だね」と笑い、妻が黙ってじょうろを差し出してくれました。慣れない手つきで苗を植えていると、土を触るのは何年ぶりかわかりませんでした。
俺が無駄だと切り捨てたものは、家計簿に書ける値段では計算できないものでした。
(30代男性・会社員)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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