29歳で会社を辞めてスポーツ選手に転身⁉︎ ピックルボール日本代表・羽澤未宥選手の働き方

29歳で会社を辞めてスポーツ選手に転身⁉︎ ピックルボール日本代表・羽澤未宥選手の働き方

2026.06.08 11:10

取材・文:ミクニシオリ

撮影:渡会春加

編集:五十嵐紫月/マイナビウーマン編集部

みなさんはピックルボールというスポーツをご存知ですか? アメリカ発祥のラケットスポーツで、実は今、世界中で「最も成長しているスポーツ」の一つとして爆発的な人気を集めており、日本国内でも競技人口が急速に増えています。

とはいえ、野球やテニスといったメジャーなスポーツと比べると、まだあまり知られていないスポーツですが……そんな業界に、会社を退職して、身一つでプロとして乗り込んでいった女性がいます。ピックルボールの日本代表である羽澤未宥(はざわ みゆう)選手は就職後にピックルボールと出会い、2024年に日本代表入りを果たしました。

『29歳で会社を辞めてピックルボール選手になった人』として発信活動も行っており、プロ選手として日々の練習に勤しむ傍らで、ピックルボールの広報活動なども行っているのだとか。

30歳を前に夢をつかむ決心をした羽澤さんに、その決意の裏にあった葛藤や挫折、それらを経験したからこその「働く軸」をお伺いしました。

■「負けず嫌いな自分」が会社員だった自分をピックルボール、そしてプロへの道に導いた

――羽澤さん、よろしくお願いいたします。まずはご経歴を教えていただけますか。

大学生まで硬式テニスをやっていて、スポーツ推薦で進学を決めてきました。プロの世界への憧れは当時からあったものの、現実的に考えられず、一度はオフィス家具メーカーに就職。その後、ピックルボールの日本代表選手として活動を始めました。

――テニスプロへの道に進まなかったのには、どんな思いがあったのでしょうか。

周囲でプロを目指している子は、高校卒業の時点でプロ活動に専念している人が多かったのも大きかったですね。私は高校で残せた実績的にも、プロを目指すのは難しいだろうと諦めてしまったんです。

――テニスはいつ頃から始められたのですか?

幼稚園生の時です。テニスは10年以上続けていましたが、飽きることもなかったので、本当に好きだったんだと思いますね。部活の他にテニススクールにも入っていたので、学生の頃はまさにテニス漬けの生活でした。

――テニスへの愛がありながら、最初の就職ではスポーツ関係に進まれなかったのはなぜですか?

たしかにコーチ業やスポーツ系メーカー就職を選ぶ子もいたんですけど、業界として就労時間が長いことや、金銭的にも稼ぎづらいというイメージがありました。それならいっそと、自分で仕事を取ってこれるイメージのある、営業職を目指しました。

――一度は一般企業に就職した後に、ピックルボールのプロ選手としての道に進まれたんですね。

就職してからは、ラケットを握る機会すらほぼなく、営業としてひたすら仕事をしていました。忙しい部署で残業も多く、思い描いていたのとは違う業務に追われる日々に途中で心を病んでしまい、部署異動をさせていただいたんです。異動後に余裕ができ、趣味で始めたのがピックルボールでした。

――では、ピックルボールとの出会いはなんだったのでしょうか。

部署異動してからは自分の時間を持つことができるようになったので、また趣味程度にテニスをするようになっていきました。一度何かを始めたら目標を持ってやりたいタイプなので、友人から誘われたピックルボールの体験会にも興味を持ったんです。テニスとの共通点が多いスポーツなので、自分の中に「やれる」という実感も強くありました。そこで、始めてすぐに試合に出てみることになりました。

――会社を辞められる時にも、色々と思うところがあったと思います。選手一本でやっていくことに決めた時、どんな気持ちでしたか。

選手一本でやっていくのを決めた時には、海外の大会にも出させていただくようになっていました。ピックルボールはまだ日本での知名度が低くて、国内の大会で結果を残せても、国外では全く結果が出なくて。会社員と兼業のままだと、自分のレベルはこれ以上上がらない……それなら、ピックルボールに専念するべきだと思ったんです。

――か、かっこいい……!

正直に言うと、自分としては本気でピックルボールをやってるのに、勝てないのが本気で悔しかったんですよ(笑)。多分、負けず嫌いなんだと思います。

■マイナースポーツプロ選手の知られざる「働き方」

――そもそも、ピックルボールとはどんなスポーツなのかも教えてください!

パドルと呼ばれる軽いラケットでボールを打ち合うスポーツです。コートのサイズがテニスの3分の1程度なことに加えてダブルスがメインと、動きがそこまで大きくないので、ラケットスポーツが初心者という方でも挑戦しやすいんですよ。もちろん、プロ同士の試合はまた別ですけど(笑)。

――ピックルボールのどんなところが楽しいですか?

まず、ボールを打った時の打感が気持ちいいです。コンコンと羽つきのような音がするんです。あとは、パドルが軽くて“自分の手でボールを返している”感覚が強いので、思いっきり打つと爽快なんですよ。あとこれはプロ目線ですが、ピックルボールはフィジカルの差が出づらいスポーツなので、海外の身体の大きな選手相手でも勝てるんじゃないかという希望を持てるところもいいですね。

――今は、プロ選手としてどんな働き方をしていらっしゃるんですか?

今はまだ日本国内で賞金が出るような大会が少ないので、スポンサーさんにサポートしていただきながらも、初心者〜中級者の方にレッスンしたり、体験イベントを開いたりもしています。その中で、自分のトレーニング時間、練習試合のための時間をしっかり確保できるよう行動しています。とはいえ、イベントの際にはディレクションも自分で行うことが多く、事務作業も多いので、休日はほとんどないですね。毎日、ピックルボールのことばかり考えています(笑)。

――なるほど……サッカーやテニスのようなメジャーなスポーツではないからこその苦労もあるのでしょうか。

今は東京に住んでいるので、マイナースポーツといえどいい環境にいられるというのはあるかなと思います。ただ、地方に行くと練習する相手がいなかったり、第三者のサポートを得づらかったりするなどのデメリットもありますね。それに、私はイベントなどで初心者〜中級者の方のコーチをやっているのですが、コーチとなる人材がそもそも少ないので、私自身にはコーチがいないんです。海外選手の動画を見たりして勉強していますが、近道にたどり着くのが難しいし、すぐに成長できないのが悔しいところです。

――では、海外の大会に出る時もお一人で……!?

そうです。私は英語も話せないのですが「意外となんとかなる」という自信はついてきましたね。ボディランゲージでもまあまあ伝わるし、それで海外選手と交流して、練習方法などを教えてもらうこともあるので。

――国内代表選手にコーチがいないというのは衝撃的ですが、自分で成長の道を切り開いていっているのは、すごいことですよね。

ピックルボールに興味を持ってくださった方と関わって、競技の認知が広がっていくのを実感することもとてもうれしいのですが、もしもその時間を全て練習に使えたなら……という気持ちもあります。ただ、こういった地道な活動によって、いつかピックルボールがマイナースポーツではなくなっていく可能性を信じて、今はがむしゃらに活動しています。

■ピックルボールでプロとしての道を開拓していく“先駆者”として

――ちなみに、スポーツ選手ならではのキャリア悩みなどもありますか?

今は練習代や遠征費などを自費で賄っている部分も多いので、将来への金銭的な不安はあります。お金を気にしながら練習しなければいけないのも、マイナースポーツならではのデメリットでもあると思うんですが、やっぱりメジャースポーツと比べて練習環境が整っていないことで、悔しい思いをすることもありますし。今はまさに、自分が開拓者、先駆者であり、後に続く人のために、道を整備しているところというか。でも、プレイヤーとしてはそんなことをしている場合ではないという焦りもあります。

――練習に広報活動まで、イメージしていたスポーツ選手とは違うマルチタスクをこなされているのは、羽澤さんが“先駆者”だからというのもあると。

もともと、マルチタスクも全然得意じゃないんですよ。一人行動も多いので、何か一つ抜けたらイベントができなくなる、大会に出られなくなるという事態もありえるので、苦手とも言っていられない感じです。

――でも、会社員もそうやって少しずつ自分のキャパを広げていくことで、新しい仕事ができるようになっていくこともあるなと。

そうかもしれないですね。ただ、私の場合そこまでやれているのは、やっぱりスポーツとピックルボールが好きだから、というのもあるのかな。あれがしたい、これがしたいというアイディアも常に湧き出てくるので、自分で自分を忙しく追い込んでいるような節もあります。不安があっても活動を続けていられるのも、結局は「好き」という気持ちに収束すると思います。

――今後の活動にはどんな展望がありますか?

まずは、海外大会で結果を残すこと、アジアのトップ選手になることが当面の目標です。遠回りしながら積むキャリアも自分ならではのスキルになるとは思っているので、楽しみながら色々試していきたいとは思っています。ただ、自分もいち女性として今後の人生を考えてみると、いつまでプロをやれるだろうかという思いもあります。短期〜中期で目標設定して、今後の身の振り方を考えていかないといけないのは、女子選手ならではの苦悩でもありますね。

――会社員かどうかに関わらず、やはり女性なら誰もが考える部分ですよね。

だけどその一方で、未来のことを考えすぎて、今やりたいことをやらないのも違うなと。会社員を辞めてピックルボールの道に進んだ時の自分のことも、ちゃんと尊重してあげたいんですよね。

――ありがとうございます。最後に、羽澤さんの働く軸を教えてください。

今は、やっぱり生活の真ん中がピックルボールです。もっと強くなりたいし、もっとピックルボールの楽しさを日本のみなさんにも広めたい。その一心で活動しています。いつかは日本で賞金の出る大会を開いて、本気でピックルボールに挑戦したい人の背中を押せるような存在になりたいとも思っています。夢を忘れず、日々の研鑽を忘れず、信じた道を突き進むのみです!

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