もしライブ中に地震が起こったら?「避難体験ライブ」で感じた、音楽が人に寄り添う力

2026.09.15 11:45

もしライブ中に地震が起こったら?「避難体験ライブ」で感じた、音楽が人に寄り添う力

私たちがライブを観に行く時、開演前に流れるアナウンス。非常口の案内や緊急時の説明は何度も聞いたことがあるから、自然と耳に馴染んでいる。けれど、本当に災害が起こったら、まずどうするべきなのか。正しく理解している人はどれだけいるだろう?少なくとも私はうまくイメージができていなかった。そんな気付きが、このライブに足を運ぶ理由になった。

2026年9月1日(火)に、渋谷のライブハウス・Veats Shibuyaで体験型イベント「Veats Shibuya 避難体験ライブ 2026」が開催された。

「防災の日」の9月1日に行われた「避難体験ライブ」は、その名の通り音楽ライブの途中に避難訓練をするというイベントだ。イベントの最中に地震や火災が起こったという想定で、観客はスタッフの指示に従って、その場で身を守る、避難するなどの対応をとる。

開演前、「ここで地震が起こるかもしれない」と想像しながらふと会場を見渡した時、正直「怖いな」と思った。天井にはたくさんの照明、ステージの左右には大きなスピーカーがぶら下がっていて、震度次第では落ちてくるかもしれない。地下にあるライブハウスだから、入り口が瓦礫で塞がったら出られなくなる可能性がある。パニックになった観客が一斉に逃げようとして、予想外の事故が起こることもあるだろう。「地震が起こったら?」という目を持つと、周囲の景色がそれまでと違って見えてくる。

イベントがスタートすると、MCを務める響と防災士が登場。この日の内容について説明を行った。その後、1組目の登場を待つ間、私の心境はやや複雑だった。「途中で避難訓練をする」という前提があったからか、ライブが始まる前の高揚やワクワクより緊張感のほうが勝っていたと思う。だからこそ、最初にステージに登場したMaverick Mom(メイブリックマム)の南出大史とONのパフォーマンスには驚かされた。1曲目から凄まじいパワーのボーカルとギター。まるでステージ上でお互いが今出せる限界の音をぶつけ合っているみたいで、生の迫力にひたすら圧倒される。そうだ、今日私が観に来ているのは少し変わったコンセプトだけど、ちゃんと“音楽ライブ”なんだ。改めてそう気付かされる。

彼らが所属するMaverick Momは石川県発のバンド。2024年の能登半島地震も経験している。そんな2人のサウンドは、「奏でる」というより「放つ」というほうが近い。迸るような熱量で、戸惑いぎみだった私を一気に音楽の世界へ引きずり込んでくれた。

2人がステージを去って数分後、最初の避難訓練が始まった。今まさに地震が発生したというシチュエーションで、体を屈めて頭を両手で守る。その間、ライブハウスのスタッフは状況を確認し、ケガをしている人や気分が悪くなっている人がいないか声掛けをする。無事に安全が確認できたところで、ライブは再開。イレギュラーな事態を挟んだからか、会場の熱気はリセットされているように感じられた。

ほどなくして、2組目として出てきたつじあやののステージは、南出とONとは対極だった。優しく透き通っていて、包み込むような歌声。カバー曲やヒット曲を織り交ぜたセットリストで、会場の空気を柔らかく和ませていく。歌に合わせて手拍子しながら、最初の避難訓練の後につじが登場する順番になっているのは、意味のある流れなんじゃないかと思った。フラットで色褪せないその声を聴いていると、とにかく安心するのだ。乱れていた心が落ち着きを取り戻し、いつもの形を取り戻す。彼女の歌にはそんな不思議な力がある気がする。

MCでは、2011年の東日本大震災でボランティア活動をしたことや、自分の子供に地震が起こった時の対応を日頃から教えるようにしていることを語っていた。つじの言葉には、毎日を懸命に生きる人々に対する愛を感じる。そこから生まれる歌は救いであり、祈りのようでもあった。

つじのステージの後、2度目の避難訓練があった。今度は地震だけではなく火災が発生したという想定だ。私を含む後方座席に座っていた観客はひとつ上の階のフロアへ移動した。実際に避難をすると、やはり空気がピリッと緊張感に満ちる。本当に火事が起きたら、不安や焦燥にも駆られるだろう。だからこそ、こうして経験を蓄積して、万が一のために心の準備をしておくことが大事なんだろう。ハンカチで口を覆って階段を上りながら、そんなことを考えた。

ライブ再開後、3組目に登場したのはとまとくらぶ。THE BACK HORN(ザ・バック・ホーン)のボーカル・山田将司と、Nothing’s Carved In Stone(ナッシングス・カーヴド・イン・ストーン)のボーカル・村松拓が結成したユニットだ。それぞれのグループでは力強いバンドサウンドが印象的な彼らだが、とまとくらぶの楽曲はアコースティックギターが主体。2人で息を合わせながら弾くギターの音色はとても豊かで生き生きとしている。ゆるい空気が漂う飾らないMCも、楽しい気持ちをもたらすのに一役買ってくれた。

とまとくらぶのステージを観ながら、「こういう安心のさせ方もあるんだな」と思った。近所のお兄ちゃんのように陽気で親しみやすくて、「ここはいつもと変わらない場所なんだな」と思い、ホッとするような。キャリアの長い2人だからこそ醸し出せる、懐の深さを感じる時間だった。

私が今回の「避難体験ライブ」で一番気になっていたのは、イレギュラーな事態に見舞われた時、アーティストがどんなふうに場を整え、音楽を鳴らすのかということだった。結果として、南出大史とONは溢れるほどのエネルギーを。つじあやのは心に寄り添う優しさを。とまとくらぶは明日を生きる活力を。3組はそれぞれのやり方で客席の私たちに安心の形をくれた。それはきっと、大きな災害が起こって心が波立っている時にこそ必要なものだ。

先日、私の住む関東でも大きな地震があった。深夜2時、スマートフォンの画面に突如出てきた「緊急地震速報」の文字。突然の出来事で、その時は慌ててほとんど何もできなかった。災害はいつどこで起こるかわからない。自分が置かれている状況も毎回異なるはずだ。まずは災害が起こった時の自分の動きをイメージしておくことが大事。私にとって「避難体験ライブ」はその第一歩になった。

【「避難体験ライブ」セットリスト】

南出大史×ON(Maverick Mom)※アコースティックセット
1. アルカディア
2. 儚夏
3. 蝉時雨
4. 宝島

つじあやの
1. 明日きっと
2. ルージュの伝言(カバー)
3. Sweet Happy Birthday
4. 風になる

とまとくらぶ
1. 羅針盤
2. Whaleland
3. プチとまと伝記
4. とまとめいと
5. 春夏秋冬

イベントMC:響

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