赤楚衛二のイメージを塗り替えた 『赤灯えれじい』黒崎煌代の絶妙な“ヘタレ演技”
今年の夏ドラマでクリティカルヒットとなった『Tシャツが乾くまで』(TBS系)のおかげで「今クールはどんな目玉ドラマが出てくるのか」と、考えるようになってしまった。コンテンツがあふれる昨今、そんな簡単にヒット作なんて出てくるわけがない。そう思っていたところに突如、ホームラン作品が出た。それが『赤灯えれじい』(テレビ東京系)だった。
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『赤灯えれじい』とタイトルだけを聞いてもなんのことかわからないと思うが、大阪を舞台にしたサトシ(黒崎煌代)とチーコ(鳴海唯)のラブコメディ。原作は連載が終了から約20年が経過した人気マンガで、フリーター同士のふたりが“赤灯”を振る交通誘導のアルバイトで知り合い、気持ちを通わせていくストーリーだ。
このドラマを夢中で観るようになった理由は、W主演のひとりである黒崎煌代の演技にある。サトシはチーコと出会う前は無職で、友人のシゲ(尾形茂)とエージ(東口英治)とつるんでばかりいた童貞男。いつも平身低頭でケンカに勝ったことなんてない、ヘタレでもある。それがたまたまアルバイト先でチーコと出会い、自立心も芽生えたのか寄生虫のようになっていた実家を出て一人暮らしを始めて、ついには無事に童貞も卒業した。ちなみにチーコは金髪セミロングヘアで愛煙家、ケンカっ早いヤンキーだ。サトシとは属性がまるで違うし、交際が始まったからといって急にふたりがキャラ変するわけでもなく、サトシはチーコに怒鳴られて殴られる日々。でも幸せそう。
黒崎はそんなサトシの垢抜けない雰囲気を醸し出すのがうまい。当初はなんのドラマなのか分からず観始めた私も、黒崎の演技に吸い込まれて、いつの間にかサトシの無事童貞卒業を願う応援隊になっていた。
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今まで『電車男』(フジテレビ系・2005年・伊藤淳史主演)、『貧乏男子 ボンビーメン』(日本テレビ系・2008年・小栗旬主演)、『モテキ』(テレビ東京系・2010年・森山未來主演)、『おっさんずラブ』(テレビ朝日系・2018年・田中圭主演)、『覚悟はいいかそこの女子。』(MBS、TBS系・2018年・中川大志主演)など、ヘタレ男が主人公のドラマをいくつか観てきたけれど、実はなかなか定着が難しいジャンルだ。いくらヘタレだからといって格好悪すぎても、良すぎても視聴者は離れてしまう。ちょうどいい塩梅を見つけ出して演じるのは至難の業で、ほんのちょっとした隙間から抜け道を探すような作業のはず。それをするり、とやってのけた黒崎はすごい。ここ最近「童貞・非モテ・フリーター」の役には赤楚衛二のイメージが強かったけれど、本作で記録が塗り替えられた。
サトシを囲む面々も注目したい。まずはW主演の鳴海唯もこれまでヤンキーなんてイメージにはなかったのに、兵庫県出身の関西弁も効いて、完璧にチーコでキマっている。その母親役の鈴木紗理奈も、借金を抱えながら実家の町工場を切り盛りする、威勢のいい女性を演じている。夏クールにタワマンに住む主婦を演じていたけれど、関西弁バリバリの今回の役のほうが断然、似合っている。そしてサトシの母親役には名前だけで納得の濱田マリ。サトシのバイト先の先輩には木村祐一と、関西の風情を良き布陣で完成させている。まだまだ登場人物は増えていくようで、チーコの元彼役のUTAがどのタイミングで出てくるのか、見どころはまだまだ続く。
さらに一見の価値があるのは、大阪のロケ地だ。ふだん、私たちが観ている地上波ドラマは関東近郊がロケに使われているのが多いぶん、「ここどこ?」と思う背景が登場する。それが物語によく似合っているので、監督が入念なロケハンをしたのか、優秀なコーディネーターさんがアテンドしてくれたのか、機会があったら聖地巡礼をしてみたい。
さて『赤灯えれじい』。秋ドラマも深夜ドラマは夫を恨む、妬む、殺すなどさまざまな怨恨が飛び交っている作品が多数を占めている。そんな最中、サトシのような質朴な青年が頑張っていて、血気盛んなチーコが暴れる本作はどこかノスタルジックな気持ちにさせてくれる。また木曜深夜が待ち遠しい。
(文/コラムニスト・小林久乃)
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