福本莉子の「何を考えているのかわからない」がハマる 死神を描きながら“人間の感情”を見つめる映画『ロスタイム』
藤まるが2017年に発表した小説『時給三〇〇円の死神』を、西畑大吾と福本莉子のW主演で実写映画化。監督は『劇場版 美しい彼~eternal~』(2023)や『ストロベリームーン 余命半年の恋』(2025)の酒井麻衣が務める。
本作における死者には、死んだという事実がなかったことにされた世界でもう一度だけ日常を送ることができる、人生の延長時間=「ロスタイム」が与えられる。死神の役割は、そんな死者たちの未練や心残りに寄り添い、最後にはあの世へ送り出すことだ。
「死神」というファンタジー的な設定を用いながら、本作が描くのは、生きることと死ぬこと、そして「遺していく者」と「遺される者」の感情。最近の作品でいえば、『ほどなく、お別れです』(2026)にも通じる、死と死後の世界の間にある時間を描いた作品といえるだろう。死という重いテーマに静かに寄り添うという点では、ドラマ『スノードロップの初恋』も記憶に新しい。
「死神」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。『ゲゲゲの鬼太郎』や『DEATH NOTE』、あるいは『ファイナル・デスティネーション』(2000)シリーズに登場する、目には見えない「死」の存在など、これまでもさまざまな解釈で描かれてきた。そんななか、本作の「死神」は少し趣が異なる。
普通の人間が「死神」を代行する作品は、意外と多くない。有名なところでは「BLEACH」が挙げられるが、本作はもちろんバトルアクションではない。死を迎える人の人生に大きく干渉することもなく、そっと見守り、必要なときに少しだけ言葉をかける。その距離感こそが、本作ならではの魅力だ。
一方で、時給300円という妙に具体的な金額が設定されているにもかかわらず、なぜ300円なのかについては説明されないなど、世界観や設定には少々ふわっとした部分もある。ただ、それは本作が設定の緻密さよりも、死を目前にした人々の感情を重視しているからなのだろう。
物語は主に4つのエピソードから構成され、それぞれがオムニバスのように展開していく。同時に、さまざまな死者との出会いを通して主人公自身も少しずつ変化していくため、短い上映時間のなかでも、その成長が分かりやすく描かれている。
例えば2つ目のエピソードでは、出産後に命を落としてしまった女性の物語が描かれる。我が子の成長を見ることができない悲しさ。母親のいない子どもにしてしまうことへの未練や申し訳なさ。そこにあるのは、自分が死ぬことへの恐怖だけではない。「遺していく人」のことを考えてしまう、複雑な心情だ。それが短いエピソードのなかに凝縮されている。
「母親が幼い子どもを遺してこの世を去る」という物語は、奇しくも同じ日に公開された『ママがもうこの世界にいなくても 私の命の日記』(2026)でも描かれている。また、『ほどなく、お別れです』を含め、「遺していく者」と「遺される者」の思いに焦点を当てた作品は近年少なくない。
決して目新しい題材ではない。それでも、何度描かれても心を打つ。いつか必ず訪れる「別れ」という普遍的なテーマだからこそ、繰り返し物語にされてきたのだろう。本作は、そんな“鉄板”ともいえる「泣ける」エピソードを、「死神代行」という設定で一本につないだ作品ともいえる。
そして、そんな本作の世界観を支えているのが、花森雪希を演じる福本莉子の存在だ。福本莉子という俳優の興味深いところは、良い意味で「何を考えているのか分からない」ところにある。
人物の内側には確かな奥行きがあるのに、それを簡単には観客に見せない。笑顔の奥に別の感情が隠れているように見える一方、暗い表情のなかにも、わずかな光を感じさせる。光と闇のバランスを、絶妙な匙加減で表現できる俳優だと思う。
それは『室井慎次 敗れざる者』(2024)、『室井慎次 生き続ける者』(2024)の2部作や、『隣のステラ』(2025)でも感じた部分だった。
そして、この福本の持ち味が、本作では「ロスタイム」という設定と見事に重なる。ロスタイムにいる死者たちは、生きているように見えて、すでに死んでいる。生と死、そのどちらにも完全には属していない曖昧な時間のなかに存在しているのだ。
福本もまた、感情を大きく表に出すのではなく、何かを抱えたまま、そのすべてを言葉や表情にはしない。だからこそ、観客は「この人は何を考えているのだろう」と想像することになる。そして、その余白が、死者の人生を変えるのではなく、そばにいて最後まで見届ける「死神」という役割にもよく似合っている。
さらに本作では、観客自身もまた、死神と同じ立場に置かれる。死者の運命を変えることはできない。限られた「ロスタイム」のなかで、彼らが何を思い、どのように別れを受け入れていくのかを、ただ見届けるしかないからだ。
死神というファンタジーを描きながら、本作が最後に見つめているのは、死そのものではなく、死を前にした人間の感情である。生者と死者、明るさと暗さ。そのどちらにも簡単には振り切れない物語だからこそ、福本莉子が持つ、感情をすべては見せない佇まいが、この作品の世界観と見事に重なっている。「死神」という存在を通して描かれるのは、死ではなく、最後まで生きようとする人間の姿なのだ。
【ストーリー】不祥事を起こした父親の逮捕、両親の離婚など不幸続きの人生に絶望していた大学生の佐倉真司(西畑大吾)はある日、同級生の花森雪希(福本莉子)に《死神》のアルバイトに誘われる。雇用期間は六カ月間、依頼内容は郵便受けに投函され、交通費はなし。そして、時給は…たったの三〇〇円。嘘みたいで理不尽なその仕事は、この世をさまよう死者の心残りに寄り添い、願いを果たす手伝いをし、あの世へ送り出すことだった。死神のバディとして花森とともに様々な死者たちとの出会いを通じて、佐倉の止まっていた人生は少しずつ動き始めたのだったが…。
【作品情報】原作:藤まる「時給三○○円の死神」(双葉文庫)出演:西畑大吾、福本莉子、渋谷凪咲、齋藤潤、泉谷星奈、佐津川愛美、山口馬木也、小澤征悦ほか監督:酒井麻衣脚本:福田果歩制作プロダクション:楽映舎『366 日』製作幹事・配給:ギャガ/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント映画公式 HP:gaga.ne.jp/jikyu-300movie/10月2日(金)TOHO シネマズ 日比谷 他 全国ロードショー
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