『しあわせは食べて寝て待て』『団地のふたり』が心地よい…"団地モノ"ドラマが支持される社会背景
桜井ユキ主演の人気作『しあわせは食べて寝て待て』(NHK総合ほか)の特別編が8月18日に放送される。本稿は、『しあわせは食べて寝て待て』が支持を集めた要因を探りつつ、地域とのつながりが希薄になった今の時代に、団地を舞台にした作品が人気を集める理由について考える。
◆視聴者を優しく包み込んでくれる作品
『しあわせは食べて寝て待て』は素朴な作品であるものの、特別編が制作されるほど多くの人に愛されている。近年は、2025年放送の『ひらやすみ』(NHK総合ほか)や現在再放送中の『団地のふたり』(NHK BSプレミアム4K・NHK BSほか)のような穏やかな日常を描く癒やし系ドラマが人気を集める傾向にあるが、本作も同じ系統に位置づけられる。
これらの作品が愛される背景にはさまざまな要素があるが、「現実に疲れているのに、ドラマでまで疲れたくない」と思う視聴者が多いからだと聞いたこともある。筆者の場合は、何気ない日常を画面越しに眺めることで、そのかけがえのない愛しさに気づき、社会の片隅でひっそり暮らす自分の生き方を肯定できた。
『しあわせは食べて寝て待て』は、ヒロインのさとこ(桜井ユキ)、大家の美山鈴(加賀まりこ)、鈴の同居人の白羽司(宮沢氷魚)を中心に物語が展開する。キャリアウーマンだったさとこは病気を機にパートへ転じ、家賃を抑えるために団地へ引っ越した。
この団地に不動産屋の担当者と初めて足を運んだ際、さとこは大家・鈴が隣に住んでいると説明を受け、「人と距離が近すぎる生活は ちょっと…」と動揺していた。また、自分の頭痛を察した鈴から薄く切った大根を手渡されたときも、顔に戸惑いが浮かび、一度はさりげなく断っていた。さとこのこれらの反応は、現代を生きる30代女性としてごく自然なことだろう。
さとこは鈴が差し出した大根で頭痛が治まり、司の薬膳の知識に惹かれたことをきっかけに、団地への入居を決めた。鈴と司のあたたかさに救われ、3人で食卓を囲むうちに、団地を"自分の居場所"と思えるようになっていく。
第2話には、さとこが「友達とも…昔みたいには付き合えないんです。みんなは結婚して、子どもを産んで、幸せな家庭を築いているのに…。私は病気になって会社を辞めて、マンション買うっていう夢も絶たれてしまって」と、鈴に打ち明ける場面がある。鈴は「これまでの自分と比べるからしんどくなるんじゃない? こう考えたらどうかしら。新しい自分になったんだって」と優しく諭していた。実社会でも、病気を密かに抱える人、フルタイム勤務が難しい人、周囲と自分を比べて悩む人は、筆者を含めて少なくない。そんな私たちはさとこに共感しつつ、すべてを受け止める鈴の包容力と、そのあたたかな笑顔にそっと慰められる。
本作は社会の常識にとらわれず、さまざまな生き方を優しく肯定してくれる、あたたかみに満ちた作品だと思う。
◆"個"の時代だからこそ団地作品は新鮮
地上波で再放送中の『団地のふたり』も多くのファン獲得に成功した人気作だ。50代独身・実家暮らしの太田野枝(小泉今日子)と桜井奈津子(小林聡美)の日常を、ゆったりとした時間の流れで描くハートフルな作品である。
野枝と奈津子はアイスを片手に鼻歌をうたいながら歩き、近所の喫茶店でホットケーキを味わうなど、ささやかな幸せを大切にしている。
野枝と奈津子は、わずらわしく感じられるような場面に置かれることもある。夕日野団地はシニア世代が多く、50代の2人は"若手"として見られている。それゆえに、網戸の張り替えを頼まれることも……。野枝と奈津子は人助けのつもりで請け負ったが、お礼にピザをおごってもらい、かわいいポチ袋に入ったお金をお駄賃としてもらっていた。
また、この団地ではお互いの職業や生活状況が筒抜けで、敷地内で顔を合わせれば自然と会話が始まり、なかなか離れられなくなることも多い。
『しあわせは食べて寝て待て』と『団地のふたり』を深く愛する筆者だが、自分自身の生活と価値観は真逆だ。隣人のフルネームも職業も知らない。また、近隣住民からのおすそ分けがあれば心理的負担を感じるし、頼み事はできれば避けたい。
こうした考えを持つ人は、今の時代において珍しくないだろう。町内会が加入者の減少により消滅した地域は増えているし、電球の交換や植物の水やりといったちょっとした困りごとを助ける有償ボランティア制度を導入している地域もある。かつては相互扶助で成り立っていたことも、現在は行政が間に入り、有償での対応となることも多い。
そんな今、団地を舞台にした作品が多くの人を惹きつけるのは、近隣関係に付きもののわずらわしさを実際に体験することなく、他者とのあたたかな関係性を疑似体験でき、優しさに包まれる点にあると思う。
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