「セカンドバージン」脚本家・大石静が描く新たな“劇的恋愛” 「常識を超えた愛」に込めた想いとは モデルプレスインタビュー
2016.04.08 12:00
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毎週火曜日に放送され、「セカンドバージン」などのヒット作を生み出してきたNHKの連続ドラマ枠「ドラマ10」が、この春から毎週金曜日に“引っ越し”。新生「ドラマ10」の第1弾となる「コントレール~罪と恋~」(全8回)の放送が4月15日の午後10時からスタートする。同作で脚本を手掛けたのは、「セカンドバージン」や「ガラスの家」などの作品を生み出し、大人の女性を魅了するラブストーリーの名手・大石静氏。モデルプレスでは、大石氏に同作の見所や作品を生み出す際のこだわりについてインタビューした。
石田ゆり子×井浦新×原田泰造が織りなす「切なく激しい大人のためのラブストーリー」
同作は、切なく激しい大人のためのラブストーリー。女優の石田ゆり子がヒロイン・青木文(あや)を演じる。文は、6年前に夫が上京中に無差別殺人事件に巻き込まれて殺されてしまい、事件直後に妊娠が判明した息子も今は5歳。夫と始めた海辺のドライブインを細々と続けている。事件に関わった刑事・佐々岡滋(原田泰造)が文と息子を気にかけて足繁く訪れるが女心はときめかない。そんなある日、店に詰め掛けるトラックドライバーたちの中に、物静かで端正な雰囲気の男・長部瞭司(井浦新)がいた…。「劇的な恋愛を体験」
― 今回もラブストーリーを手掛けられましたが、心境からお願いします。大石氏:大河ドラマを頼んで頂いても、朝ドラを頼んで頂いてもよいのですが、NHKさんは私には、濡れ濡れのラブストーリーを下さります(笑)。歳も歳なのでラブストーリーを頼んで下さるだけでも嬉しく思います。ラブストーリーを2つやって(「セカンドバージン」、「ガラスの家」)、今はあまり“恋愛好きな時代”ではないといいますか、傷付くことを嫌って恋はしないという人が多いような気がします。なので、ドラマの中では劇的な恋愛を体験して頂きたいなと思います。それがエンターテイメントの仕事だろうなと思います。
― 文が出会う長部瞭司は、無差別殺人事件に巻き込まれて犯人と格闘し、過失で文の夫を殺めてしまったという設定ですね。
大石氏:今は携帯電話もあって待ち合わせで会えないということはまずないので、困難なことが少ないじゃないですか。「セカンドバージン」のときは歳の差を設定したのですが、でも時代の方が飛び越えて今はそのくらいの歳の差の人はいっぱいいるようになりました。「ガラスの家」では、お父さんの後妻という枷(かせ)を作りました。そういう枷がないと、「何となくキュンとはした…けど」みたいな話にしかならないので、何か大きな枷はないかなと思って考え付いたのがこれでした。
― 事件という衝撃的な出来事から入って物語が進みますが、意図は?
大石氏:最初に事件を出すか、最初に2人が知り合ってそこからだんだん背景が分かって行くようにするかのどちらにするかを考えたのですが、見ている人が何もかもを知って、「この2人が出会っちゃった!」、「どっちが言うんだ?」、「バレたときに2人は諦めるのか?」というサスペンスを盛り込むには頭に事件を置いてお客さんに先に知らせた方がいいと思いました。
― 設定は海辺ですね。
大石氏:「セカンドバージン」のときは時代の先端を生きている2人で、スタイリッシュな衣装で都会的な感じで、おしゃれだったんですよね。「ガラスの家」もエリートたちの話で、自宅もカッコイイし、霞が関の話でした。今回は設定としてヒロインは地味なお洋服なのですが、景観は、山か海かなと思いました。ビジュアル的に海辺であるとか、海岸道路を走る車であるとか、そういうことを考えて海辺がいいかなと思いました。
― 40代の女性の視点で描いたのは?
大石氏:私が書くので、若い女の子と男の子がくっ付いたり、結婚しようかなと悩んだりすることにぜんぜん興味がないんです。若い作家がそういうものをお書きになるのは興味のあるものとしてあると思うのですが、私の歳まで生きて来たからこそ、色々な諦めだとか、人生の不自由を知ってから恋愛をすると、どんなに素敵で、どんなに痛いかということが分かるので。
石田ゆり子・井浦新・原田泰造の魅力
― 井浦新さんが演じる長部瞭司は、もともとはエリート弁護士でしたね。大石氏:私はエリートの男が崩れていくのが好きなのです。それはたぶん、私が見たいので。エリートがエリートのまま行くとなると「勝手にやりなさいよ!」と思ってしまうのですが、エリートがつまずいたときにどうなるのかということに、とっても興味があるんです。井浦さんは2回目で、次にやるときはスナイパーみたいな役がいいと思っていたのですが、そういうわけにはいかなくて、やっぱりラブストリーになっちゃいました(笑)。
― ヒロインの石田ゆり子さんは?
大石氏:石田さんは、40代の中ではトップを切るくらいの色っぽい女優さんになってきたなと思います。鈴木京香、宮沢りえを凌ぐくらいの色気を発していると思います(笑)。日本の女優さんはカワイイというのが衰えて来ると厳しくなる方が多いのですが、外国の女優さんはだんだん素敵になっていきます。石田さんは、外国風な女優さんと言ってもいいくらい、歳と共に素敵になっています。
― 事件に関わった刑事を演じる原田泰造さんにはどんな印象を持っていますか?
大石氏:泰造さんは、ものすごく演技が上手いと思うの。俳優の才能があって、何を見ても上手いなと思います。
― 井浦さんと原田さんの役で、“謎めいたいい男”と“いい人”の対比がありますね。
大石氏:どうしても“いい人”だけじゃダメなのよね。理屈じゃないセクシーな感じがないと、女の人は幸せじゃないと思うんですよね。泰造さんのやる役は、本当に誠実で、あの人を信じて生きていけば間違いがないのだけど、それじゃ嫌だという気持ちは、私はすごく分かるの。
「倫理」の向こう側とは?
― どんな視聴者を想定しましたか?大石氏:大人向けとか、子ども向けとか、女性向けとか、男性向けとかはないと思います。子どもが見たら、意味不明だけど何となくゾクッとする面白さや、見てはいけないものを見る面白さがあるだろうし、男の方が見ても、女の方が見ても面白いと思うので。私が書くときは、女の視聴者や男の視聴者に向けて書くことはないです。このドラマは女目線なのですが、それは女の人を狙っているということではなく、ヒロインの気持ちで物語を運んでいるということです。謎がどこで暴かれるのかというサスペンス的な面白さや、人が人を思うことのせつなさは、男も女も変わりはないと思います。
― 倫理が問われるテーマですが、狙いは?
大石氏:常識とか、倫理とか、そういうものの向こう側に真実があると思っているの。だから、そういうものを突破しないと手に入れられないような恋を描こうと思っています。それが私の隠れテーマで、どんなドラマでも必ず、既成の価値観への問い掛けは作品の中に込めたいと思っています。みんな倫理とか、常識とか、漠然と正しいと思っているものの向こう側を見ようとしないじゃないですか。見ないで生きた方が楽だから。だけど、そこにある真実に手を伸ばしちゃう人もいるだろうし、見えている人には見えているだろうし。そこをいつもやりたいと思っています。ラブストーリーにはそれがストレートに反映されます。例えば、不倫が暴かれると色々と言われるけど、やむなく好きになっていると思うんですよね。もちろん、それだから「みんなやっていいですよ」という訳じゃないけど、その切実な気持ちに嘘はないと思うのね。たまたま奥さんがいたり、夫がいたりなど、色々とあるとは思うけど、好きだという思いに嘘はないと思うんです。
恋愛は「試練」
― 最後に、モデルプレスの読者に向けてメッセージをお願いします。大石氏:サスペンス・ラブストーリーとして見て頂ければ年代を問わず面白くできていると思います。恋をする気持ちや、人を好きだという“胸キュン”する感じや、これからどうなるという物語のハラハラ感を味わって頂けると思います。
恋愛をするのも一つの試練、凄く素敵なこともあるし、痛いこともあるし。恋をすることは自分が試されるということなのではないかなと思います。そういうことは感じて頂けると思います。
(modelpress編集部)
NHK総合ドラマ10「コントレール~罪と恋~」(4月15日午後10時スタート 連続8回)<あらすじ>
脚本:大石静出演:石田ゆり子、井浦新、原田泰造、桜庭ななみ、堀内敬子、丸山智己、松浦理仁、中西良太、村田雄浩、野際陽子ほか
概要:
無差別殺人事件で夫を失った孤独な女。絶望の淵で出会った運命的な恋の相手は、夫を殺した男(ひと)だった…。愛してはいけない相手と知ってなお、激しく求めあう二人。そして女を想い、その恋をそっと見守る心優しき刑事。人生には、どんなに苦しい時でも、思いがけない出会いが訪れる――
※コントレール=飛行機雲の英訳。ヒロインにとってはすぐに消えてしまう幸せの象徴であり、男にとっては、人を殺めた時に見た悲劇の象徴。ヒロインが営むドライブインの名でもある。
【Not Sponsored 記事】