市原隼人の“役者魂”とは?脚本家・一雫ライオンが語るその素顔 モデルプレスインタビュー
2016.02.12 19:00
views
市原隼人主演の映画「ホテルコパン」(2月13日公開)の脚本を手がけた脚本家・一雫ライオン氏(42)がモデルプレスのインタビューに応じた。俳優から脚本へと転身した異色のキャリアを持つ彼に、主演を務めた市原の素顔やその魅力、今作に込められたメッセージなどを語ってもらった。
「ホテルコパン」は長野県白馬村のある小さなホテルを舞台に、ワケありの10人の男女が繰り広げる群像劇。白馬村は長野オリンピックで盛り上がりを見せた後、寂れた村になっていった。そこで働く従業員や宿泊客はみな、誰にも言えない闇や傷を抱えながら生きている。市原が演じるのは、ホテルコパンで働く元教師の海人祐介。海人には、中学教師時代に担任した生徒・守がいじめを苦に自殺してしまったという過去があった。そんな中で、あることがきっかけで、ホテルに一人の女性がやってくる。女性の顔を見て、海人は顔をこわばらせ、過呼吸に陥る。その女性は、守の母・千里だった。
キャスティングに脚本家が関わることは基本的にはないそうだが、執筆中に配役のイメージが浮かぶことはあるそうだ。市原が演じた海人は、心に闇を抱えた難役だった。物語の舞台となるホテルコパンに集まったワケありの男女のキャラクターを立てる必要もある。そんな中で監督から主演を張る俳優として名前があがったのが市原だった。
市原といえば「WATER BOYS2」「ROOKIES」などの代表作を持つことから、熱血漢のイメージを抱く人が多いはずだ。しかし、2001年公開の主演映画「リリイ・シュシュのすべて」では、学校でいじめを受け鬱屈した日々を送っている少年を演じきった。
海人は、市原にとって原点回帰といえる。一雫ライオン氏も今、市原が海人を演じることは「役にはまると感覚的に思っていました」と確信があった。台本を読んだ市原もこの役を受けることを快諾したという。
スクリーンの中の市原と、一雫ライオン氏が描いた海人に、全くブレはなかった。心に闇を抱えた海人を体現するには、並大抵でない感性と努力が求められる。市原は「海人はまともに食事を摂れる精神ではない」と察し、体重を落として撮影に挑んだ。食事が喉を通らない海人は、一雫ライオン氏の脚本には描かれていない。市原自らが作り上げたもので、監督ともにその姿勢に賛辞を贈る。
門馬監督にとって長編映画デビュー作となる今作。そんな彼との出会いは、マネージャーを介して、出会うべくして出会った。「門馬さんと出会ったのは2011年。当時、門馬さんもまだ駆け出しの監督さんで、長編を撮ったことがありませんでした。話が合ったことから『長編映画を撮りたいから、脚本を書いてくれないか』と依頼を受け、僕もぜひと引き受け、生まれたのが『ホテルコパン』です」。
脚本を書きだしたのが2011年。そして2016年2月、いよいよ世に送り出される。この時期の公開について、一雫ライオン氏は「いい時期だと思います。神様がこの時期に公開したら?と言ってくれているようです。2020年に東京オリンピックが開催されますが、映画の舞台も1998年の長野オリンピックで盛り上がった白馬村。今では、観光客も減り、閑散としています。新国立競技場をはじめとする華やかな東京オリンピックは、必ずしも良い財だけが残るわけでない」と社会背景にふれ、問題提起する。
門馬監督とのタッグは、今作が初めてとなるが、これまでにショートフィルムを中心にいくつかの作品を発表してきた。また今年6月には、ファンキー加藤を主演に迎えた映画「サブイボマスク」も公開を控える。そんなパートナー・門馬監督について、こう語る。「門馬さんは優しい人で『今、ライオンさんは脚本家としてステップアップする大切な時期だから、ほかの仕事を優先して』と言ってくださるんです。監督と脚本家が決まったタッグを組むことは多いのですが、門馬さんとはいわば夫婦のみたいな関係です(笑)。門馬さんが旦那さんで、僕が奥さん(笑)。時間をかけて、監督と脚本家で台本を作るのですが、台本が完成すれば、奥さんである僕は旦那さんの門馬さんに台本を託して現場に送り出す。そこでキャストやスタッフの先頭に立ち、監督にがんばってもらう。お互いに別の監督さん、脚本家さんとお仕事をすることもありますが、ちょっと嫉妬をしてしまうことも(笑)」。
そう陽気に語るのは、脚本家として今が充実している証拠。18歳から役者として活動し、35歳で脚本家に転身。「泥沼のようだった」と語る役者時代をこう振り返る。「ビッグチャンスをもらったこともありましたが、それを活かすことができなかった。単に才能がなかったんです。それでも役者として活動する中で、いろんな台本に触れる機会がありました。面白い台本もあれば、つまらない台本もある。そんな中で、脚本家としての感性が養われていったのだと思います」。
役者の経験が脚本家としてのキャリアに生きているのも事実だ。「僕のように売れない役者をしていたのならば、きっと大半の方が30歳になる前に別の道を進むことでしょう。でも、僕は諦めが悪くてどうにかしたいと思った。結果、形は変わってもドラマや映画、舞台に関わることができて『いい仕事に巡り会えた』と思います。役者時代は泥沼のようでしたが、その時間があったからこそ、今こうして脚本が書けているのだと思います」。逃げなくてよかった、そうつぶやいて、小さく笑う。
最後に、脚本家としての才能に気づき、順調にその道を歩み続ける一雫ライオン氏に夢を叶える秘訣を聞いてみると「夢を夢だと思わないこと」という答えが返ってきた。「やりたいことが見つけられるって素晴らしいことだと思うんです。でも、それは同時に大変なことへのスタート。夢だと思うからしんどくなる。だからこそ発想を転換させ、単に未来の自分としてイメージすればいいかと思います。冷静な自分で自分を見つめ、自分をプロデュースするという目線に立つことで成功を導くかと思います」。
こう語れるのは、自分の経験からだろう。俳優から脚本家へと転身した彼のキャリアが詰まった言葉だ。新たな才能に気づいた一雫ライオン氏は、これからも人々の胸を打つ作品を世に送り出してくれることだろう。(modelpress編集部)
生年月日:1973年7月12日
出身地:東京都
血液型:AB型
俳優としての活動を経て、2008年に演劇ユニット「東京深夜舞台」を結成。それを機に俳優から、“一雫ライオン”として脚本家に転身し、活動をはじめる。TVドラマでは2009年3月にTBS系ひるドラ「おちゃべり」で脚本家デビュー。映画では、2011年3月公開「前橋ヴィジュアル系」(監督:大鶴義丹 主演:風間俊介)の脚本を担当以降、2013年に「ハヌル ―SKY―」(監督:門馬直人)では「SHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA 2013」ミュージカルShort部門でUULAアワード・グランプリを受賞。また「完全なる飼育」シリーズの最新作「TAP 完全なる飼育」(監督:片嶋一貴)が2013年11月に公開したほか、2016年2月に市原隼人主演の「ホテルコパン」が公開。ほか「イイネ!イイネ!イイネ!」(今秋公開)、「サブイボマスク」(6月11日公開)などの公開を控える。
役者・市原隼人の姿勢
一雫ライオン氏に市原の印象を聞いてみると「クランクイン前、初めてお会いしたとき『おはようございます!』と、とても礼儀正しく、挨拶をしてくれました。これまで、いろんな俳優さんを見てきましたが、本当にキラキラしている方。僕が書いた台本を読んで『これは命をかけてやらなきゃいけないなと思いました。全身全霊で努めさせていただきます』と言っていただきました。書く立場からすると、これほどありがたい言葉はありません。真摯に向き合ってくださるその姿勢が嬉しかったです」と目を細める。キャスティングに脚本家が関わることは基本的にはないそうだが、執筆中に配役のイメージが浮かぶことはあるそうだ。市原が演じた海人は、心に闇を抱えた難役だった。物語の舞台となるホテルコパンに集まったワケありの男女のキャラクターを立てる必要もある。そんな中で監督から主演を張る俳優として名前があがったのが市原だった。
市原といえば「WATER BOYS2」「ROOKIES」などの代表作を持つことから、熱血漢のイメージを抱く人が多いはずだ。しかし、2001年公開の主演映画「リリイ・シュシュのすべて」では、学校でいじめを受け鬱屈した日々を送っている少年を演じきった。
海人は、市原にとって原点回帰といえる。一雫ライオン氏も今、市原が海人を演じることは「役にはまると感覚的に思っていました」と確信があった。台本を読んだ市原もこの役を受けることを快諾したという。
一雫ライオンと市原隼人が作り上げた主人公
オリジナル作品となる今作は、監督が撮りたいイメージを探り出し、一雫ライオン氏がシナリオやキャラクター像を考案。主人公を“傷ついている男性”にしたいという思いから、生徒を自殺に追いやってしまった過去を持ち、東京から長野へ移住して心を閉ざしたまま小さなホテルで働く元教師の海人祐介というキャラクターが生まれた。そして、海人には、一雫ライオン氏の経験や「自分を再生させたい」という過去の苦悩も投影されていた。スクリーンの中の市原と、一雫ライオン氏が描いた海人に、全くブレはなかった。心に闇を抱えた海人を体現するには、並大抵でない感性と努力が求められる。市原は「海人はまともに食事を摂れる精神ではない」と察し、体重を落として撮影に挑んだ。食事が喉を通らない海人は、一雫ライオン氏の脚本には描かれていない。市原自らが作り上げたもので、監督ともにその姿勢に賛辞を贈る。
コンビネーション抜群のタッグ
ほか、共演に名バイプレーヤーとして知られる近藤芳正やベテランの清水美沙、フレッシュな大沢ひかるなど、名だたる役者陣が集結。一雫ライオン氏も“怪優”揃いと胸を張る。監督は、これまでにもタッグを組み、作品を発表してきた門馬直人氏。しかし、意外にも初めて協同したのはこの作品だという。門馬監督にとって長編映画デビュー作となる今作。そんな彼との出会いは、マネージャーを介して、出会うべくして出会った。「門馬さんと出会ったのは2011年。当時、門馬さんもまだ駆け出しの監督さんで、長編を撮ったことがありませんでした。話が合ったことから『長編映画を撮りたいから、脚本を書いてくれないか』と依頼を受け、僕もぜひと引き受け、生まれたのが『ホテルコパン』です」。
脚本を書きだしたのが2011年。そして2016年2月、いよいよ世に送り出される。この時期の公開について、一雫ライオン氏は「いい時期だと思います。神様がこの時期に公開したら?と言ってくれているようです。2020年に東京オリンピックが開催されますが、映画の舞台も1998年の長野オリンピックで盛り上がった白馬村。今では、観光客も減り、閑散としています。新国立競技場をはじめとする華やかな東京オリンピックは、必ずしも良い財だけが残るわけでない」と社会背景にふれ、問題提起する。
門馬監督とのタッグは、今作が初めてとなるが、これまでにショートフィルムを中心にいくつかの作品を発表してきた。また今年6月には、ファンキー加藤を主演に迎えた映画「サブイボマスク」も公開を控える。そんなパートナー・門馬監督について、こう語る。「門馬さんは優しい人で『今、ライオンさんは脚本家としてステップアップする大切な時期だから、ほかの仕事を優先して』と言ってくださるんです。監督と脚本家が決まったタッグを組むことは多いのですが、門馬さんとはいわば夫婦のみたいな関係です(笑)。門馬さんが旦那さんで、僕が奥さん(笑)。時間をかけて、監督と脚本家で台本を作るのですが、台本が完成すれば、奥さんである僕は旦那さんの門馬さんに台本を託して現場に送り出す。そこでキャストやスタッフの先頭に立ち、監督にがんばってもらう。お互いに別の監督さん、脚本家さんとお仕事をすることもありますが、ちょっと嫉妬をしてしまうことも(笑)」。
「泥沼のようだった」俳優時代を経て脚本家へ
現在は脚本家として、その才能を発揮している一雫ライオン氏だが、以前は役者として活動していた。所属していた劇団が人手不足で、自ら脚本を書いたことを機に、彼の転機が訪れた。「34~35歳の頃、全く仕事がなく、自分が出る場所を作るために劇団を立ち上げたんです。人手不足で、僕が台本を書くことになって、自分が主演のストーリーを書いていたのですが、出来上がった台本に、僕に合う登場人物がいなかったんです(苦笑)。このとき『売れないわけだ』と気付かされました(笑)」。そう陽気に語るのは、脚本家として今が充実している証拠。18歳から役者として活動し、35歳で脚本家に転身。「泥沼のようだった」と語る役者時代をこう振り返る。「ビッグチャンスをもらったこともありましたが、それを活かすことができなかった。単に才能がなかったんです。それでも役者として活動する中で、いろんな台本に触れる機会がありました。面白い台本もあれば、つまらない台本もある。そんな中で、脚本家としての感性が養われていったのだと思います」。
役者の経験が脚本家としてのキャリアに生きているのも事実だ。「僕のように売れない役者をしていたのならば、きっと大半の方が30歳になる前に別の道を進むことでしょう。でも、僕は諦めが悪くてどうにかしたいと思った。結果、形は変わってもドラマや映画、舞台に関わることができて『いい仕事に巡り会えた』と思います。役者時代は泥沼のようでしたが、その時間があったからこそ、今こうして脚本が書けているのだと思います」。逃げなくてよかった、そうつぶやいて、小さく笑う。
作品に込めた思いと夢を叶える秘訣
今や名パートナーとなった門馬監督との初タッグである「ホテルコパン」は、一雫ライオン氏にとっても大きな挑戦になったはずだ。今作に込めたメッセージを聞いてみると「脚本を書いているときは、それを考えることはありません。ただ、出来上がって見てみると、誰一人として何も抱えずに生きている人はいないんだなって。『ホテルコパン』でも様々な悩みや問題を抱えた10人が登場します。主人公の海人をはじめに、登場人物の生き方から、映画を見終わったとき、1センチでも前に進める後押しができれば嬉しいですね」と期待を込めた。最後に、脚本家としての才能に気づき、順調にその道を歩み続ける一雫ライオン氏に夢を叶える秘訣を聞いてみると「夢を夢だと思わないこと」という答えが返ってきた。「やりたいことが見つけられるって素晴らしいことだと思うんです。でも、それは同時に大変なことへのスタート。夢だと思うからしんどくなる。だからこそ発想を転換させ、単に未来の自分としてイメージすればいいかと思います。冷静な自分で自分を見つめ、自分をプロデュースするという目線に立つことで成功を導くかと思います」。
こう語れるのは、自分の経験からだろう。俳優から脚本家へと転身した彼のキャリアが詰まった言葉だ。新たな才能に気づいた一雫ライオン氏は、これからも人々の胸を打つ作品を世に送り出してくれることだろう。(modelpress編集部)
一雫ライオン(ひとしずくらいおん)プロフィール
本名:若林謙生年月日:1973年7月12日
出身地:東京都
血液型:AB型
俳優としての活動を経て、2008年に演劇ユニット「東京深夜舞台」を結成。それを機に俳優から、“一雫ライオン”として脚本家に転身し、活動をはじめる。TVドラマでは2009年3月にTBS系ひるドラ「おちゃべり」で脚本家デビュー。映画では、2011年3月公開「前橋ヴィジュアル系」(監督:大鶴義丹 主演:風間俊介)の脚本を担当以降、2013年に「ハヌル ―SKY―」(監督:門馬直人)では「SHORT SHORTS FILM FESTIVAL & ASIA 2013」ミュージカルShort部門でUULAアワード・グランプリを受賞。また「完全なる飼育」シリーズの最新作「TAP 完全なる飼育」(監督:片嶋一貴)が2013年11月に公開したほか、2016年2月に市原隼人主演の「ホテルコパン」が公開。ほか「イイネ!イイネ!イイネ!」(今秋公開)、「サブイボマスク」(6月11日公開)などの公開を控える。
【Not Sponsored 記事】