9人に1人がなる乳がん、「しこり」以外の初期サインも? 早期発見のためのセルフチェックのポイント

2026.07.13 20:45
提供:All About

【医師が解説】乳がんは日本人女性の9人に1人が罹患しますが、早期発見できれば5年生存率は9割を超えます。しこりだけでなく、皮膚や乳頭の変化、分泌物などの初期サインを見逃さないことが大切です。セルフチェックのポイントを解説します。(※画像:Shutterstock.com)

お風呂に入っているときや着替えの際、ふとした拍子に「あれ? 何か胸に硬いものがあるかも……」と不安になった経験はありませんか?

その小さな違和感は、体が発している乳がんの初期サインかもしれません。

乳がんは、日本人女性が一生のうちに診断される確率が約11%、すなわち9人に1人が生涯罹患(りかん)するリスクがあるとされる、決して他人事ではない身近な病気です。それと同時に「早く見つけられれば、しっかりと治せる病気」でもあります。

今回は、見逃してはいけない乳がんの初期サインについて、具体的にご紹介します。

「しこり」だけではない乳がんの初期サイン。主な乳がんの兆候・初期症状

乳がんの代表的な症状として、「しこり」を思い浮かべる方が多いと思います。

しかし、乳がんのサインはそれだけではありません。乳がんは乳房の組織から発生するため、がんが進行するにつれて、乳房の形や皮膚の表面、乳頭(ちくび)などにもさまざまな変化が現れることがあります。覚えておくべき、乳がんの主な初期サインを以下に挙げます。

乳房のしこり

乳がんのしこりは、一般的に硬く、指で押しても周囲に逃げずにその場に留まる(動かない)ことが多いという特徴があります。また、多くの場合、痛みがないことが特徴です。

皮膚の表面の変化

がん細胞が周囲の組織を引っ張るため、乳房の皮膚の一部が「くぼむ」や「ひきつれる」といった症状が出ることがあります。また、赤みが出たり、皮膚がオレンジの皮のようにポツポツと粗くむくんだりすることもあります。

乳頭(ちくび)の変化

乳頭が内側に引き込まれて陥没してしまったり、乳頭の周囲に湿疹のようなただれができたりすることがあります。

異常な分泌物

乳頭から液体が出ることがあります。特に下着に茶色や赤色の血が混じるような分泌物が付着している場合は注意が必要です。


脇の下のしこりやはれ

乳房のリンパ液は脇の下のリンパ節(腋窩リンパ節)へと流れているため、がん細胞が移動すると、脇の下にコリコリとしたしこりやはれを感じることがあります。

これらのサインの全てが、すぐに乳がんを意味するわけではありません。しかし、「いつもと違う」と感じる変化があった場合は、決して放っておいてはいけない大切なサインとなります。

5年生存率は90%超へ。「早く見つけること」が命を守る最大の武器

さて、「がんは早期発見が重要」とよく耳にしますが、実際にどれくらいの差が生まれるのかご存じでしょうか。

日本の研究で、がんの自覚症状がない段階で受診した「定期健診で発見されたグループ」と、しこりなどの異変を感じてから受診した「自覚症状が出てから受診したグループ」で、がんの進行度や経過にどのような違いがあるかを比較したものがあります。

結果は、がん細胞がまだ周囲の組織に広がっていない極めて初期の段階で見つかった人の割合は、「定期健診で発見されたグループ」では40.9%だったのに対し、「自覚症状が出てから受診したグループ」では28.7%と著しく低下していたことが分かりました。つまり、「目で見てわかるような症状がはっきり出てからでは、早期発見にならないことが多い」ということです。

さらに重要なのが、その後の生存率の差です。

治療を開始してから5年後の生存率を比較したところ、「定期健診で発見されたグループ」は91.7%という非常に高い数値であったのに対し、「自覚症状が出てから受診したグループ」では85.6%という結果になっていました。統計的にも明らかな差が見られたのです。

これらの結果からも、医療機関での定期的な乳がん検診や、小さなしこりの段階で見逃さないためのセルフチェックの重要性が分かるのではないでしょうか。「症状が進行する前の段階」で乳がんを見つけることは、その後の命に関わる重要なポイントになるのです。

今日からできる「自己検診」。セルフチェックのための正しい方法は?

それでは、どうすれば乳がんを早期発見できるのでしょうか。もっともよい方法の1つが「自己検診」です。

自己検診は、月に1回、以下の手順で簡単に行うことがすすめられています。ぜひ、やってみてはいかがでしょうか。

タイミング

月経(生理)がある方は、乳房が最も柔らかくなり、しこりを確認しやすい「月経終了後の一週間以内」が最適です。閉経された方は、毎月「1日」や「15日」など、覚えやすい日を決めて行うと習慣化しやすいことが分かっています。

目で見てチェック(鏡の前で)

鏡の前に立ち、腕を自然に下げた状態と、両腕を高く上げた状態の2つのポーズで、乳房の形に左右差がないか、皮膚にくぼみやひきつれがないか、乳頭がへこんでいないかを正面と側面から観察します。

触ってチェック(お風呂や寝室で)

3~4本の指の腹をそろえて使い、乳房に100円玉大の小さな「の」の字を書くように優しく、かつ肋骨の硬さを感じるくらいに少ししっかりと押し当てながら、乳房全体をくまなく触ります。鎖骨の下から脇の下にかけても同様にチェックします。

乳頭を優しくしぼる

乳頭の根元を軽くつまむようにしてしぼり、異常な分泌物(特に血液が混じったもの)が出ないかを確認します。

自己検診の最大の目的は、がんを見つけることそのものよりも、自分の乳房の「いつもの状態」を知ることにあります。

「いつもの状態」を指先や目で覚えておくことで、「あれ? 先月と違ってここだけ硬い気がする」という小さな変化に気付けるようになるわけですね。

毎月1回の自己検診と定期的な乳がん検診が、乳がんの早期発見につながることが分かっています。

あなたの胸の「小さなサイン」を放っておかないで

自分の胸にある「しこり」や変化に向き合うことは、誰にとっても勇気がいることです。「もし病気だったらどうしよう」と怖くなってしまうのは当然のことだと思います。

筆者はかつて医師の先輩に、「私の胸を触ってくれない?」と飲み会の席で言われたことがあります。これだけ聞くと、セクハラなのではと驚かれてしまうかもしれませんが、先輩のあまりに真剣なまなざしに触らせていただいたところ、「ギザギザとした石のように硬い感触」がありました。

「この感触忘れちゃだめよ」と私に言った先輩は、半年前に自分の胸のそのしこりに気付いていたそうです。しかし「自分が乳がんになるわけなどない」「仕事や家族に迷惑がかかる」と考え、痛みもないからもっと大きくなったら受診しようと様子を見てしまったとのことでした。

翌日、私は先輩を説得して外科受診につなげました。すでに進行していた先輩の乳がんは、ホルモン療法や抗がん剤治療をした後に手術をすることになりましたが、あっという間に先輩は亡くなってしまいました。

「もっと早く受診していればこうはならなかったかな」と聞かれ、私は何も答えられませんでした。自分なりにこう答えればよかったと考えては、いや違うと悩み、出した答えを伝えようとしたときには先輩はいなくなっていました。あまりにも早い出来事で、15年がたった今でも思いを告げられなかった先輩が生きている気がしています。

異変を恐れて放っておくのではなく、気付いたそのときに一歩を踏み出すことが、あなたと、それだけではなく周りの人のこれからの人生の選択肢を最も大きく守る鍵となります。

「まだ若いから」「痛くないから大丈夫」と先延ばしにせず、お風呂上がりや着替えの時間のわずか数分間を利用して、まずは一度、自分の胸を優しくケアするように触ってみてください。もし「いつもと違う」と感じる部分が見つかったら、それは体があなたに発してくれた大切なサインです。

自分の命と、あなたを大切に思う家族や周りの人たちのために、乳がんの早期発見に向けたセルフチェックを今日から始めてみませんか。

■参考文献
1. 厚生労働省「2022年国民生活基礎調査の概況」
2. 柳田康弘,宮本健志,藤澤知巳,他.有症状で一次検診を受け,当院で二次検診を受けた群の特徴.日本乳癌検診学会誌 2013;22:299-301.
3. Motoki Iwasaki,Shoichiro Tsugane.Risk factors for breast cancer: epidemiological evidence from Japanese studies.Cancer Sci.2011 Sep;102(9):1607-14.
4. Matthew M.Poggi M.D.,David N. Danforth M.D.,Linda C. Sciuto B.S.N.,et al.Eighteen-year results in the treatment of early breast carcinoma with mastectomy versus breast conservation therapy.American Cancer Society Journals 2003;98:697-702.
5. Jun Ota,Toshio Horino,Tetsuo Taguchi,et al.Mass Screening for Breast Cancer: Comparison of the Clinical Stages and Prognosis of Breast Cancer Detected by Mass Screening and in Out‐patient Clinics.Jpn J Cancer Res. 1989 Nov;80(11):10281034.

秋谷 進プロフィール

小児神経学・児童精神科を専門とする小児科医・救急救命士。プライベートでは4児の父。子どもの心と脳に寄り添う豊富な臨床経験を活かし、幅広い医療情報を発信中。


執筆者:秋谷 進(医師)

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