モデルプレスのインタビューに応じた坂口健太郎(C)モデルプレス

坂口健太郎が“愛情の人”と言われる理由 今だから語れる“負の連鎖”の時期と変わった感じ方<インタビュー>

2022.01.02 09:00

モデルプレスのオリジナル企画「今月のカバーモデル」で1月のカバーモデルをつとめた俳優の坂口健太郎(さかぐち・けんたろう/30)。1年かけて撮影したフォト&ワードブック「君と、」を通して自分を見つめ直したという彼が、30歳の今感じることとは―――。

  

坂口健太郎「君と、」で新たな気付き

「君と、」は、「優しくて、美しい」を入口に撮影された四季折々の写真と自ら綴った言葉で構成されたフォト&ワードブック。坂口は完成したものを愛おしそうに見つめ、「この『君と、』を作るきっかけになったのが『優しくて、美しい』というワードだったので、その名を付けるのにふさわしいものが出来たなと思いました」と話す。

様々な表情が収められた写真とともに坂口らしい言葉も散りばめられているが、それを考えるのは「すごく難しかった」という。しかし、「1年ぐらいかけて撮影して、言葉は3段階ぐらいに分けて編集さんに見ていただきました。その時々で思ったことをつらつら書いていたのですが、集まったものを初めて読み返した時、自分が当時思っていたことや精神状態を改めて見て『この時は意外とピリピリしてたんだなあ』とか『自分ってこういう瞬間にこういうことを思うんだ』みたいな、ちょっと自分を知れたような感じがしました」と新たな気付きもあったようだ。

坂口健太郎「君と、」表紙(撮影:sai、ワニブックス刊)
様々な言葉を眺めながら、坂口は「今までは自分の中で引っかかりを持たなかったような言葉に、自分のその時の琴線が触れていたのだと思います」と振り返った。

「僕は自分のことをすごくポジティブ人間だと思うんですけど、そんな僕でも、『くらっていたんだな』というのを改めてちょっと感じました。だからこの本の中では『優しく、美しい』をさら~っと薄くではなく太いマジックで表現したような言葉が多い。力が強かった気がします。若い時の反抗期に近いような感じです」

「優しくて、美しい」の幅広さ

写真に合わせて言葉を考えたわけではないが、完成したものを見た時「すごく良い感じでフィットした」と感じたそう。

「写真を見て言葉をつけようとなると、やっぱり写真から引っ張ることが多かっただろうなと思うのですが、何も考えずに日々引っかかったものだけを集めて組み合わせた時に、なんとも言えない100%フィットしてないフィット感があって、それがある種の余白になるような気がしました。その時々で好きな写真や言葉が変わってもいいだろうし、読んでくださる方に『委ねよう』と思いました」

坂口健太郎「君と、」(撮影:sai、ワニブックス刊)
テーマを決めた時のことを、坂口は「もやもやしている時に、自分がそういう精神状態だからこそ、自分にない『優しくて、美しい』をどこかで求めていたんだろうなと思いました。だから、僕が今すごく『優しくて、美しい』に当てはまるような精神状態だとしたら、そのテーマで写真を撮りたいとは思っていなかったと思うんです」と思い返す。

「でも撮っているうちに『優しい』や『美しい』には色々なジャンルがあることに気付きました。風景や儚さ、割れたガラスを触っているような刹那的でドキッとする美しさ、労働者の汗のような肉体的なものに見える美しさ…。撮影しながら『こんな優しさ、美しさもある』と見つけていった感じでした」

坂口健太郎、コロナ禍での撮影で感じたこと

坂口健太郎「君と、」(撮影:sai、ワニブックス刊)
2021年7月に30歳になった坂口。撮影は29歳の時にスタートした。

コロナ禍で人生の節目を迎えることとなったが、「29歳になった時に『20代最後だから楽しいことしたいな』という気持ちはあったのですが、コロナで何も消化できないままの1年でした。だから『20代はこんなに頑張ったから、30歳を迎えてまたここから頑張ろう!』みたいな気持ちは想像していたよりも薄かった。不完全燃焼感がちょっとありました」と回顧。

また、「その移り変わりが感じられていない分、『30歳になってこんなことをしたい』というのが正直あまりないです。学生の皆さんも卒業旅行に行けなかったりと存分に学生生活を楽しめていないかもしれませんが、その気持ちが少しわかる感じがします」と本音を明かした。

それでもなお、坂口は前向きだった。「でもむしろ、この時代に撮れることってもうないだろうから、そういうところはポジティブシンキングなんだと思います。確かに大変な時代だけど、もう今後経験できないと思ったら、今撮れたことは逆にラッキーかもしれないです」

坂口健太郎、変わらない“委ねる”という想い

坂口健太郎(C)モデルプレス
「仮面病棟」(2020年3月)、「劇場版 シグナル 長期未解決事件捜査班」(2021年4月)と主演映画の公開もコロナ禍とぶつかった。坂口は「『劇場にお越しください』と気軽に言えなくて、見てもらうことが当たり前ではなくなったので、そういう面で言うと“見てもらう”ということに貪欲になったと思います」と俳優業への想いに変化があったという。

しかし、根幹にある“委ねる”という想いに変わりはない。

「撮影中は色々な作り手の想いがあって、そこに自分も想いをのせますが、映像だったら観てもらう、本だったら手元に届いた瞬間に、『もう自分に出来ることは終わった』と思うこともあって。だから『この作品でどんなことを伝えたいですか?』という質問はすごく難しいなと思います(笑)。受け手の環境や精神状態で、響く場面も違う。だから、答えを出すことで逆に響くポイントを消しちゃっている気もして」

「なので今回も、あえて『こういう本だよ』というのは明確に出さずに、割と抽象的なんです。『この写真、なんかわからないけどいいな』『この言葉、意味がわからないけどなんか素敵だな』と思ってもらえたら、それが正解というか。自分で見ながら『これめちゃくちゃかっこいいな!』と言っているので、『こんな美しい僕を見てくれ』という気持ちもないかと言うと嘘になるんですけど…(笑)。それでも皆さんのお気に召すまま楽しんでほしい、そんな感覚です」

長期の撮影で「奥行きが出た」

自身でかっこいいと感じたショットがどれなのか聞くと、坂口は興味津々に「皆さんのお気に入りも知りたいです!どれが好きですか?」とまさかの逆質問。記者たちのお気に入りカットを聞くと「なるほど」「へ~!」と目を輝かせながら聞き、最後には「恥ずかしいこと言わせちゃった(笑)」と照れ笑いを浮かべた。

坂口健太郎「君と、」(撮影:sai、ワニブックス刊)
そして彼自身もページをめくりながら、好きなカットとともに思い出を話してくれた。何色も重なった夕日が反射した海をバックにした写真については「この時本当にすごくて!現地の方曰く、薄い雲がかかっているからこう見えたらしいんです。反射で海がオレンジっていうのがすごいなぁ」としみじみ語った。

複数の映像作品と同時並行での撮影だったため、「体型や髪の長さもその時やっている役によってちょっと違う」とのこと。「それもなんかいいなと思いますね。数日間でばーっと撮るものより奥行きが出た感じがします」

坂口健太郎「おかえりモネ」後に感じた変化

2021年はNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」でヒロインの恋人となる菅波光太朗役を演じ、日本中に“菅波沼”を巻き起こした坂口。連日「#俺たちの菅波」を始めとする関連ワードがトレンド入りし、続くTBS系ドラマ「婚姻届に判を捺しただけですが(ハンオシ)」では堅物変人イケメン・百瀬柊を好演した。

坂口健太郎(C)モデルプレス
これまで様々な役を演じてきた坂口だが、名前が世に出ていくことへの戸惑いを感じていた時期もあったという。

「2015年頃、少しずつ認知していただけるようになり、もちろん嬉しかったのですが、どちらかというと『姿も声も一緒だけど、自分じゃない僕が知られている』みたいな違和感や不安が大きかったです。当時の僕のイメージは、優しくて爽やかな好青年。でも、そうじゃない自分もいると頭の中では思っていて、好青年のイメージだけがどんどん大きくなってしまうのがすごく怖かったんです。その違和感を持ったまま仕事をしていくうちに、『僕はこう見られなきゃいけない』と自分でも勝手に決めつけてしまって。本当は空っぽのリュックでもいいはずなのに、どんどん砂を詰めて、自分を身軽じゃなくしていたみたいな、そういう負の連鎖のような時期はありました」

「でもそれを経験しているからこそ、今回は切り離して考えられた。どこかでリュックを脱ぎ捨てる瞬間があったんです。むしろ今は僕じゃない坂口健太郎が売れているみたいな感覚があって、そう思われるのもラッキーだなと思っています。菅波役や『ハンオシ』など、メディアに取り上げられるとそれだけ認知度も上がるじゃないですか。前まではそれに対してもがいていたところがあったのですが、今は知り合いの兄ちゃんが売れているみたいな、少し軽い気持ちで客観視できるようになりました」

「最終着地点のような人でいられるように」

坂口健太郎「君と、」(撮影:sai、ワニブックス刊)
“委ねる”という想いに通ずるが、インタビューでも言葉の随所から“色々な答えを受容する”という考えが垣間見える。

「昔よりも『なんでもいいんだ』と思えるようになったというか、間違いはないということがちゃんとわかりました。対人関係で言うと、僕の周りにいる人が何か間違いや失敗をしてしまった時に、それで僕との関係性が変わることはないと思っていて。だからその人には『最終的に僕がいる』ということをわかってほしい。仕事相手でも家族でも、そういう存在ってその人をすごく強くすると思うんです。僕も仕事やプライベートで大変だなと思うこともありますが、自分が失敗しちゃった時に、周りに僕のことを本当に愛してくれている人がいるとわかると、もう一つ強くなれる気がしていて。もちろんそこに甘んじるわけではないですが、自分が最終着地点のような人でいられるようにしようというのは思っています。今ってすごく失敗をさせない世の中じゃないですか。でも、例えば僕の友達に何かあったとしても、僕がそういう存在でいられる」

その意識があるからこそ、もう1歩先の「どう思われてもいい」という考えに至った。

「色々なことに気を遣わなければいけない時はありますが、全部が全部そうなってしまうとどんどん心が荒んでしまうというか、豊かになれない。なので極論を言うと、どう見られても、どう思われてもいいなと思っています」

坂口健太郎は「愛情の人」

デビューから現在までの間で、坂口を取り巻く環境は目まぐるしく変わったはずだが、彼自身は変わらない。芸能活動の原点ともなった「MEN’S NON-NO」のスタッフからは、今も当時から変わらない“坂口成分”があると指摘されたそう。多忙な日々が続く中でも、穏やかな雰囲気で周りを癒す彼は「自分が楽しくラクでいるためには皆がラクな方がいい」とあくまで自分主体で振る舞っている結果だと語った。

「編集さんは、僕のことを“愛情の人”だと言います。僕は皆に愛を与えたいと考えているというよりは、自分が楽しくなるように過ごしている結果そうなっていると思っています」

坂口健太郎(C)モデルプレス
最後に坂口は「君と、」の編集者と話した“愛情の自家発電”の話をしてくれた。

「愛情を渡し続けてしまって空っぽになってしまう人もいる。けど今僕は多分、その自家発電能力がすごく高くて、渡しても空にならないんです」

取材中もスタッフへの細かな気配りは絶えず、短い時間の中でも彼が“愛情の人”であることが伝わってきた。これから先もきっと、多くの人々に愛情を渡し続けていくのだろう。(modelpress編集部)

坂口健太郎(さかぐち・けんたろう)プロフィール

1991年7月11日生まれ。東京都出身。俳優デビューは映画「シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸」(2014年)で、近年の出演作に、映画「仮面病棟」(2020年)、「劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班」(2021年)、ドラマ「35歳の少女」(日本テレビ系/2020年)、「おかえりモネ」(NHK/2021年)、「婚姻届に判を捺しただけですが」(TBS系/2021年)など。2022年の待機作に映画「余命10年」(3月4日)、「WOWOWオリジナルドラマ ヒル」(3月放送開始)がある。

クレジット

スタイリスト:壽村太一
ヘアメイク:廣瀬瑠美
【Not Sponsored 記事】

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