北川悦吏子(C)モデルプレス

「半分、青い。」律の“ナレ離婚”、実は幻の2行があった<脚本・北川悦吏子インタビュー後編>

2018.09.28 08:00

9月29日に最終回を迎えるNHK連続テレビ小説『半分、青い。』(NHK総合/月曜~土曜あさ8時)。同作は、故郷となる岐阜と東京を舞台に、ちょっとうかつだけれど失敗を恐れないヒロイン・楡野鈴愛(永野芽郁)が、高度成長期の終わりから現代までを七転び八起きで駆け抜けるおよそ半世紀の物語。全156回を書き上げた脚本・北川悦吏子がモデルプレスのインタビューに応じた。<後編>

  

律の“ナレ離婚”、実は幻の2行があった

佐藤健/「半分、青い。」より(C)NHK
― 廉子(鈴愛の祖母:風吹ジュン)のナレーションも印象的なセリフが多いですが、最近だと律の“ナレ離婚”がTwitterのトレンドに入るなど話題になりました。

北川:“ナレ離婚”ね(笑)。

― “ナレ死”は多く使われていますが、“ナレ離婚”は新しいなと。

北川:実はあれは、時間の関係で2行くらい切られたんです。オンエアだと「やはり、アメリカ。外国。より、家族のストレスはたまり、ひとつき前に離婚が成立しました」だったんですけど、台本だとストレスはたまりの後に「うまくいくものもうまくいかない。うまくいかないものは、よりうまくいかない」ってちょっと面白いことを廉子さんは言うんです。廉子さんの面白い言い回しによって、視聴者の気持ちが一瞬、そっちにいくので、「え!?ナレ離婚?」ってあまり思わなくて済むだろうっていう計算があったんです。この針の穴を通すような計算がうまくいっているかどうか、私にもわかりません。

でも、そういう計算が大事なんです、15分枠って。それだけで、どちらにも舵を切れるわけです。ちょっと、専門的なことを言ってますが。これが、無意識にやっている時もあって、でも、切られて気づいたのですが、これは「技」だったんです。切られてわかる、絶対に切ってはいけないセリフ(笑)。わかりません、そのままオンエアしても、いきなりすぎないか?と言われた可能性もあるでしょう。でも、他の回で、このように、廉子のナレひとつで逃げきれた回は、実はたくさんあります。逃げきれた、というか、うまくいった回もありますね。ま、うまくいった時は、みなさん技には気がつかないから。ただ、感動してくれます。それでいいんですけど。その方がいいんですけど。

― その言い回しにしていたのは、“ナレ離婚”と話題になるのを回避するためだったということでしょうか?

北川:2行があっても“ナレ離婚”って言われたかもしれないですけど、台本通りであれば私は戦えたかなと思っています。「大丈夫いけてます」って言える。いきなり感が出ないように廉子さんのナレーションを工夫した。「この間あんな展開だったのに、今回あっさり離婚するの?」って感じさせないナレーションの持っていき方にするっていう技です。

あと、これは、他の取材でも言ったことですが、このドラマは、展開が早い、のではなく、人生のスライスオブライフと思って書き始めています。鈴愛という人の一生のどこを切り取って見せるか。普通は、2時間の舞台や映画などで、よく使われる手法ですが、敢えて156本という長い枠でやってみました。どこを切り取るか、は無論、私が考えるわけです。どの瞬間がきらめくか、どの瞬間が痛いか、どこを拾うか、が勝負の作品でした。

北川悦吏子(C)モデルプレス
― あの回(“ナレ離婚”の回)は、正人(律の大学の同級生:中村倫也)が久々に登場した注目度の高い回でもありました。

北川:そこを聞かれると、どうしたって作劇的なことを話さざるえないのですが、一話の中で消化しなければならない情報量が多すぎる回だったのです。でも、今後の流れのためには、この回でそれを消化しておくことが、必須だった。至上命令(笑)。どうしたら、面白おかしく観せられるか、すごく苦労した回でした。律の離婚とロボット部の閉鎖っていう2つのことが同時に出てくるので、見せ方が難しかったです。例えば頭で廉子さんが「律くんのロボット部が閉鎖しました」「律くんが離婚しました」って言ったら、情報としては合ってるんですけど、観ている方は、つまらないです。あ、そうですか、と思うだけ。情報だけ出されてもドラマじゃないので、どうドラマ仕立てにするのかっていうことをとても考えて書きました。で、正人が律の部屋に来て「ここ、誰か来たりする?」とか腫れ物に触る感じで探り始めるんです。すると視聴者は、「どういうこと?」「律くんに何があったの?」って推理をし始める。興味を逸らさないようにする。その時間があると、いきなり離婚しているという印象にならずにその問題が解消できる。ナレーションの使いようも肝でした。

― では、“朝ドラ”ならではのナレーションの使い方をした回に。

北川:そうでしたね。“朝ドラ”はナレーションが多くても許されるので。廉子さんのナレーションって普通じゃないんです。ここから出たり、あっちから出たり、色々なところから喋るので、人の視線を誘導できる。テレビを一緒に観ている隣の人から話しかけられたようなことを言うこともあって、ありとあらゆる角度から来ています。

― 今のお話を聞くとよりナレーションに注目したくなりました。

北川:困ったときの廉子ナレ(笑)。どのシーンに飛ばすか、予定調和だと飽きてしまうからとにかく驚かせなくちゃいけないと思って書いていましたね。「この回、ここで終わるの?」っていうことも廉子さんのナレーションがあるからできることでした。

晴さん(鈴愛の母:松雪泰子)が上京してきて、鈴愛が正人に恋をしている話をした回は、そっちがメインストーリーなんですけど、どこで終わらせようって考えたときに、岐阜の家には男子たちが残ってるなと思って、仙吉さん(鈴愛の祖父:中村雅俊)と草太(鈴愛の弟:上村海成)の「真夏の果実」のシーンに飛ばしたんです。「真夏の果実」を歌って、戦争の映像を挟むっていうのも、書いていて思いついたシーンです。戦争のことを書かないといけない、と思ってたんですが、なかなか、タイミングがなかった。岐阜の実家に、男どもが残っていて、草太が仙吉さんのお酒の相手をしている。そしたら、ああ、なんか歌ってもらおうかな、そこから、あっ、そうだ、何か、戦争の記憶と相性のいい曲はないか、と探しに探して、「真夏の果実」に行き着きました。そして、廉子さんが仙吉さんの歌に対して「ちゃんと届いてますよ」っていう、廉子ナレでしめくくる、という。すると、美しく終われる。

普通はナレーションって心情の説明とかに使われるけど、ナレーションで視点を変えられる。「◯◯があって◯◯になりました」とか具体的な説明がなくても、右から見ていたものを、ナレーションによって左下から見せるとか、引いてたのが、寄る、とか。カメラのアングルを変えるように差し込んで……って私は作劇についてなぜこんなにアツく語ってるんだ(笑)。

北川悦吏子(C)モデルプレス
― とても興味深いです!

北川:珍しい取材になってる(笑)。でも、そういうことを知ると、観ている人も少し面白いのかなと思います。ただ、面白おかしいことを言わせているわけではなくて、登場人物との遠近感を変えるとか計算をしているんですよね。廉子ナレはとても活躍してくれましたし、風吹さんの声だと色んなことが許される。「星野源が歌い始めるー!?」もなかなか許される人はいないと思います(笑)。

― あれは衝撃的でした。

北川:このあともまだ遊びがありますよ。

― ちなみに北川先生が特に印象に残っているナレーションは?

北川:最初のほうでしたけど、鈴愛が左耳を失聴したときのナレーションですかね。「私の世界は、半分になった」とか「足元がぐらぐらした。心もとなかった」は、私が片耳を失聴した直後の実感だったんです。今そこまでセンシティブな言葉は出ないんですけど、思ったままを書いている。そういう意味では、完全にリアルなナレーション。自分の言葉をセリフに隠すっていうのは、今に始まったことじゃなくて、25年ずっとそうやって書いているんですけど、あれは失聴しないと書けなかった台詞ですよね。想像では出てこないと思います。

北川悦吏子が語る”夢を叶える秘訣“

北川悦吏子(C)モデルプレス
― 最後に、鈴愛が夢を追う姿が描かれた同作にちなみ、北川先生自身が考える “夢を叶える秘訣”を教えてください。

北川:とにかく動くこと。先まで延ばさないで、今だと思ったら今手を挙げる。悩んでいる時間で動く。ダメだったらそれでいいし、失敗してもいいと思う。若い時は時間が過ぎるのも早いので、その早い流れに乗ってとにかく動いてみてください。ダメでも気にしないで、次に行く。何がやりたいかにもよるけど、認められなければ認めてくれなかった人がダメって思う。自分はダメじゃないって思い込むことも大事です。

― それは、これまでのキャリアを振り返って実感することでしょうか?

北川:私は脚本を書き始めた20代のとき、「お前じゃダメだ」って散々言われましたし、ときには「迷惑だから書くのをやめろ」とも言われました。でも、「この人はダメっていうけど、そうじゃない人もいるかもしれない」って不遜にも思ったんです。すごく辛かったですけど、「誰か他の人が読んだら面白いって思うかも」って信じながら、下手な鉄砲も数打ちゃ当たる方式で。あと、失敗してかっこ悪いと思ったら誰にも言わなきゃいい。友達に言うのは成功したときでよくて、誰かと共有してしまうと、自分の失敗が定着する(笑)。自分だけしか知らないんだったら、ないことにしてしまえばいいんです。だから1人で内緒でやるっていうのもいいかもしれないですね。上手くいかなかったら消しゴムで消す(笑)。

― そうやって次に進んでいけばいい。

北川:そうそう。上手くいったときだけ人に言えばいいんです。わざわざ失敗を公にする必要はないと思います。私はそうやってきました。ないことにしてしまうっていう(笑)。何かのマンガの原作大賞に応募して、かすりもしなかったこともあるし、詩を書いて応募して、ぜんぜんダメだったことも。内緒です。ケシゴムで消しました(笑)。今だから言えることかもしれないですけど、なかったことにしてしまえばいいんです。男子にふられてもそうです。人に言わない。人に言うと、その言った人の中で、その事実が育つから。ひとりでやって、ダメだったら、消しゴムで消して、はい、次。次、なに書こうかな、これでいいんです。

― インタビューは以上になります。素敵なメッセージありがとうございました。

永野芽郁/「半分、青い。」より(C)NHK
最終週(第26週)について、「ちょっと衝撃です。いろんな感想は来るだろうな、と思っています。でも、自分の信じるもの、スタッフと信じたものを出すだけです。物を創るって結局そういうことなんで」と語っていた北川氏。サブタイトルは「幸せになりたい!」。全156回の物語の結末は?鈴愛の“幸せ”とは――?(modelpress編集部)

北川悦吏子(きたがわ・えりこ)プロフィール

北川悦吏子(C)モデルプレス
1961年12月24日生まれ。1989年、脚本家デビュー。『愛していると言ってくれ』(1995年)、『ロングバケーション』(1996年)、『ビューティフルライフ』(2000年)など恋愛ドラマがヒットし“ラブストーリーの神様”と呼ばれる。『ビューティフルライフ』では、第18回向田邦子賞、第8回橋田賞を受賞。

あらすじ(9月28日放送)

ようやく現実と向き合う気持ちになった鈴愛(永野芽郁)は、単身、ある場所を訪ねる。東京では、鈴愛の帰りを待つ律(佐藤健)のもとを、正人(中村倫也)が訪れていた。そこに、鈴愛と律あての速達が届く。封筒を受け取った律が差出人を確認すると、秋風羽織(豊川悦司)と書かれていた。その中には、秋風から鈴愛と律に贈る言葉が…。一方の鈴愛も、思わぬ人物からのメッセージを聞かされることになる。
【Not Sponsored 記事】

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