「キミスイ」で声優初挑戦の高杉真宙、現場で悩み抜いた“僕が演じる意味”―アニメ好きだからこそ感じた“夢と現実の差”、たどり着いた答えとは<インタビュー>
2018.04.19 17:00
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先月中旬、劇場アニメーション作品『君の膵臓をたべたい』(9月1日公開)の主演声優を若手俳優の高杉真宙(たかすぎ・まひろ/21)がつとめることが発表され、Twitterで「高杉真宙」の名前がトレンド入りするほどの反響を呼んだ。住野よるの原作小説は累計260万部を突破、昨年7月に公開された実写映画も大ヒットを記録した話題作。人気と実力を兼ね備え今まさにブレイク真っ只中である高杉の“声優初挑戦”に期待する声が広がる一方で、本職の声優ではなくあえて高杉を起用することの意味を問う声も少なからずあった。その“意味”について誰よりも悩み、正解を求めて考えを巡らせたのは紛れもなく高杉本人。理想と現実の壁にぶつかりながらも、主人公の「僕」にまっすぐ向き合った。
アニメを愛する高杉真宙「本当にやりたいことだったからこそ、ギャップにボコボコにされた」―たどり着いた“ひとつの答え”とは
キャスト解禁の数日後、都内スタジオにて公開アフレコが行われた。まだ絵コンテの状態のアニメーションを見ながら声を吹き込んでいくキャスト陣。低く落ち着いた声の「僕」と、弾むように朗らかな声のヒロイン・桜良(Lynn)の会話はコントラストがくっきりと際立つ。シーンごとに、音響監督から「ここまでは淡々と。その後はニュアンスが出るように気持ちをしっかりのせて」といった細かい指示を受ける高杉。大勢の関係者が見守る中でのアフレコに少し緊張しつつ、いきいきと声に感情をのせていった。高杉の漫画・アニメ好きは知られたところ。デビュー以降、ドラマや映画で絶え間なく活躍しつつ、声の仕事を夢のひとつに掲げてきた。「中学時代が一番、アニメ好きが激しかった時期なんですけど、その当時の友達が(高杉が声優をやることを知って)連絡をくれました。『お前じゃん!』って。今までは全然来なかったのに(笑)。『今度、苦労話を聞かせてよ』と言われたので、会って話すのが楽しみですね」と嬉しそうに笑顔をこぼす高杉だが、初めての収録を振り返ってもらうと「久々に本番前、逃げ出したくなりましたね」と決して穏やかではなかった心境を明かす。
「結構憂鬱になって…。本番前の何日間かは現実逃避してしまったほどでした。もちろん楽しみでしたし、自分のやりたいことだったんですけど、それがいざこうして目の前に来ると、本当に自分がやりたいことだったからこそのギャップにボコボコにされたといいますか…。いくら家で台本を読み込んでセリフを言ってみても、夢と現実の差というものが埋まらないんですよ。自分のやりたい理想はあるのに、それに近づく方法がわからない。何をどう練習したら、僕は夢に近づくことができるのか…。それでもやるしかないので、『合ってるのか合ってないのかわからないな』と思いながら、セリフを繰り返し読んでいました」
そんなやみくもな自主練の末、テストアフレコに臨んだ高杉はすぐに「そうじゃない」とダメ出しを受ける。
「どうやって演じるのが正解なんだろう?と散々悩んだんですけど、『君に頼んだんだから、素直に今までやってきた演技でいいよ』と言われたのがすごく衝撃的でした。それを言われた時、僕自身ずっと悩んでいたのが不思議になるくらい、『素直に演じていいんだ』と納得することができて。正解…と言い切るのもあれですけど、それが答えだったんだなと思いました。それまで僕は、どうやったら僕が(いちアニメファンとして)見てきたものに近づけられるのかということにとらわれていて。もちろんそれが実現すれば僕自身としては本当に成功だと思っているんですけど、そうじゃない成功の方法もあったんだなと。僕がこれまで見てきた作品も、それぞれのキャストやスタッフの皆さんが作り上げてきた集大成のようなものじゃないですか。だから僕も、僕自身がこれまでの人生で作り上げてきたものでしっかりと『僕』という役に向き合って、演技をしていくべきだと思いました。高杉真宙としての想いも一緒にのせて演じたつもりですし、そこは本番を何度もやらせていただく中で、徐々に慣れていったという感じです」
病気を隠して日常を過ごす桜良と、その秘密を知った「僕」。製作プロデューサーは「僕」というキャラクターについて「一見すると人が苦手で暗そうな少年ですが、その実、自分の考えや価値観をしっかり持ち、常に何かと戦っている様な少年です。そうしたキャラクター性の表現に求めていた声の艶や質感と共に、作中での『僕』の成長を描くのに“上手さと未完成さを兼ね備えた”声の芝居が必要でした」と語り、偶然、高杉がナレーションをつとめるWEB動画を見た時に「『僕』の声を見つけた。そう確信しました」とキャスティングに至るまでの運命的な出会いを明かしている。そうした製作陣の期待を受け、「出来る出来ないじゃなくて、やらなきゃいけないんだ」と初挑戦を完遂した高杉。表現者としてまた大きな成長があったはずだ。
「成長したかどうかは…僕自身でははっきりとはわからないんですけど、監督をはじめ周りの方に『大丈夫だよ、出来ているよ』『成長しているよ』という風に言ってもらえたからこそ、なんとかやり遂げることが出来たと思っています。ただ、そういった声をいただくことで勇気づけられた部分はあっても、自分が本当に100%出来たとは思っていません。満足してしまったらそれまでだと思うので、自分としては常に『まだまだ。もっと頑張ろう』という気持ちで取り組むようにしていました」
アニメの「僕」と半分ずつ、「一緒に演技をして『僕』を作ってください」という指示にも驚かされたという。「仮面ライダーの時に、ライダーに声を入れるということはやったんですけど、それとはまた全然違うものでした。アニメの中のキャラクターと“一緒に頑張っていく”というのが不思議な感覚でした」。
実写版に続くヒットが期待されるが、高杉が考える“アニメだからこそ”の魅力とは。
「現実の世界でもきれいなものが、さらに幻想的に描かれている中で、その美しい画と現実的で悲しいストーリーの交差がすごく良いんじゃないかと僕は思います。そして、やっぱりアニメでしかできない表現というものがあると思うんです。アニメの世界だからこそ成立して、感動できるものがあるので、それがどんな風に仕上がっているのか楽しみです。僕自身は原作と台本を読んで、『僕』というキャラクターを理解した上で、アニメの中で動いている『僕』と一緒に精一杯演じました。儚くて切ない、この世界の物語をぜひ見ていただきたいなと思います」
高杉真宙Q&A/Lynnのアフレコを見学し「泣きそうになっちゃって…」
Q. 演じた「僕」と高杉さんの共通点は?高杉:あると思います。「僕」のように人に興味を持たないというほどではありませんが、相手の芯の部分に自分からは触れようとはしないというのは、少し通じる部分があると思います。
Q. アフレコで苦戦したことは?
高杉:アニメの口の動きに合わせること以外にも、“ここで喋ってください”というマークが出たりするので、そこに合わせるのが大変でした。あと、自分自身が演じるとしたら、気持ちを作る上でセリフとセリフの間だったりとか、「ここはもう少し(間を)取りたいな」ということがあるんですけど、そこの部分がもう絵で決まっているので、気持ちが少し早めに流れていくようなイメージでした。自分のセリフが遅れると全部遅れていってしまうので、そこは大変でしたね。台本で「…」や「?」という記号だけで示されている部分や、息遣いは自分で入れてと言われたので、そこは台本に書き込んで見逃さないようにしていました。
Q. ヒロインを演じたLynnさんから刺激を受けた部分は?
高杉:刺激を受けるというよりは、感動するという言葉が近いかもしれないです。僕が出ていないシーンの収録を、後ろで座って見させていただいたことがあったのですが、そこで泣きそうになりました。自分が初めて収録をした時とかよりも感動しちゃって…。鳥肌が立って、「ああ、僕は本当にここにいるんだ。本当に一緒に作れてるんだな」と実感することができたんです。本番中なのに、ちょっと泣きそうになっちゃったんですけど、自分の番が来て我に返りました(笑)。
Q. Lynnさんとは何かお話をしましたか?
高杉:僕が初めてのことで余裕がなく、緊張してずっと無言になっていたんですけど、話しかけてくださいました。僕があるパーカーを着て行った時、Lynnさんも「同じパーカーを持ってる」と教えてくださって。その日着てこようと思っていたそうです。次の日、着てきてくださったんですけど、本当に同じパーカーで衝撃的でした。僕は赤で、Lynnさんは黒。そんな何気ないやり取りで、空気が和らいだ感じでした。
Q. 昨年大ヒットした実写版はチェックしましたか?
高杉:見ていないんです。いつもだったら見るんですけど、今回に関しては自分が演じるのとも違うし、アニメの「僕」と一緒に演じられたらいいなと思っていたので、映画に引っ張られないように、あえて見ないことにしました。
Q.好きな声優さんはいますか?
高杉:神谷浩史さんや櫻井孝宏さんが好きです。声を聞いた時に、「あっ、神谷さんかな?」「櫻井さんかな?」という風に気づくんですけど、いつも全然違う声なのがすごいなと思います。声は違うのに「っぽいな」と思えるのは、やっぱりプロの声優さんならではだと思います。声を変えて演じて、キャラを作っていくのが本当にすごいですよね。
Q. 今ハマっているアニメは?
高杉:『PSYCHO-PASS サイコパス』の映画があるということで、一期からまた見始めたのと、元々漫画が好きなので『からかい上手の高木さん』を見ています。
(modelpress編集部)
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