数多くの歌い手を世に送り出したクリエイター・くじら、ソロアーティストとして本格始動 顔出しの真意も明かす<インタビュー>
2022.05.05 12:00
自身の作品をボカロではなく生身の歌い手に歌わせて発表するという手法で数多くのクリエイターを世に送り出してきたクリエイターのくじら。今年で活動4周年を迎え、ソロアーティストとして本格的に始動した。顔を隠しながら活動を続けることも当たり前になっている昨今、顔を出したくじらの意外な真意とは?
手がけた楽曲は2億再生越え
2019年4月より活動を開始し、様々なアーティストへ楽曲提供を行っているくじら。中でも自身の作品を“ボカロではなく生身の歌い手に歌わせて発表”するという手法は大きな注目を集め、「ボカロP feat. 歌い手」という手法を一般化させた。一線で活躍する歌い手へも楽曲を提供し、広く認知されるきっかけを作ったという。
くじらが作詞・作曲した楽曲のYouTube総再生回数は驚異の2億1千万超。今回モデルプレスでは活動開始からの変化を振り返ってもらいながら、ソロアーティストとしての想いを聞いた。
くじら、大きなターニングポイント明かす
― 2019年4月から活動を開始し、数々のアーティストへ楽曲を提供されてきたくじらさん。これまでの3年間を振り返っていかがですか?くじら:あっという間というか、息つく暇もないような3年間でした。でも改めて振り返ってみるとすごく充実していました。様々な楽曲提供のお話をいただきながら、自分がこうなりたいと思う姿に向かって頑張ることができた3年間だったなと感じます。
― これまでの活動で特に印象に残っていることはなんですか?
くじら:2020年に「寝れない夜にカーテンをあけて」というアルバムをリリースさせていただいたんですが、その中に収録されている「寝れない夜に」という曲を書いた瞬間はよく覚えています。その頃、逆流性食道炎や他の病気を併発してしまいました。すごく苦しくて「このまま死んでしまうんじゃないか」と感じた時、「まだ世に出していない曲がある。やりたいこともたくさんある」と、生まれて初めて強く生きたいと思ったんです。「寝れない夜に」はその時にできた曲なので、個人的にすごく印象に残っています。
― 楽曲へ対する想いにも変化が?
くじら:そうですね。今までは世の中の無常感を歌詞にすることが多かったんですが、「死ぬかもしれない」と経験し自分の人生を見つめなおす中で徐々に変化していきました。「寝れない夜に」は、日々を見つめなおす曲を書くようになる大きなターニングポイントになりました。
― 周りへの印象も変わっていきそうですね。
くじら:家族は安心したのかなと感じます。それまでは希死念慮(死にたいと願うこと)を感じることが多かったんですが、活動する姿を見せたり大きな反響をいただくことで親孝行にもつながっているのかなと思います。ありがたいことに友人も変わらず応援してくれています。
― そして2022年4月からソロアーティストとして活動されますが、顔出しをすることへの抵抗はありませんでしたか?
くじら:今までは歌い手さんなど色んな方とコラボレーションさせていただいていたので顔を出す必要がなかったんですけど、ソロとして活動していくとなると楽曲が一部の方にしか届かないと感じていて。自分のヴィジュアルを出すことでメディア露出が出来たり、音楽以外の部分でもフックになり楽曲に辿りついてくれる方もいるのかなと思います。自分の曲を見つけてくれる可能性があるのであれば、顔を出すことへも抵抗はありませんでした。
― まだヴィジュアルが出る前ですが、不安な気持ちも?(3月末インタビュー)
くじら:実は結構楽しみです。人とのコミュニケーションは苦手なんですが、目立ちたがり屋なめんどくさい性分で(笑)。どんな反応が返ってくるか楽しみで、前向きな気持ちでいます。
実体験を元にした新曲
― そして4月13日には「四月になること」をリリースされます。こちらはどのような楽曲になっていますか?くじら:僕は季節が持つ意味について曲にすることがよくあるんですが、「四月になること」はタイトルの通り春をテーマにしています。春は別れや出会いがあり、人によって受ける印象が違う季節だと思うんです。歌詞は別れの曲にはなっていますが、意味を限定しきらないように書いたので、聴いていただいた方の解釈で捉えていただければと思っています。
― 最初に聴いた時は悲しい曲なのかと感じましたが、前向きな歌詞もありましたね。
くじら:そうですね。何かを失ったり別れてしまうと、悲しみに暮れる時間が多くなってしまうと思います。でも例えば大切な人を亡くした時に、ずっと悲しみに暮れているのを失った人は望んでいないんじゃないかなと思うんです。「必要以上に落ち込むことはないよ」と肩をポンと叩いてあげられるような楽曲にできればなと思いました。
― 今作も「眠れない夜に」の経験が活きている?
くじら:そうですね。「四月になること」もそうですが、生きることに焦点を向けて曲を書くようになりました。あの頃の経験がなければ生まれていない曲だったのかなと感じます。
― 歌詞で特にこだわった部分や、時間がかかった部分はありますか?
くじら:「四月になること」の歌詞は実話を元にしているんです。ストーリーとしては大切な友人が希死念慮を抱えていて、春には死のうと思っている。けれどその前に雪が見たいと話し、雪を見に行くことで生きる気力が少し湧いたように感じる。でも帰ってくると結局連絡が取れなくなる、という内容です。半分くらい実話なんですけど、人に限定せず別れることや失うことの気持ちにマッチしてくれればいいなと思っています。
― サウンドに関してはかなりシンプルですね。
くじら:春は体育館に集まりピアノの伴奏だけで生徒が歌っているという印象が強くて、なるべくピアノの弾き語りで楽曲を作りたいなと思いました。歌詞もメロディーラインもすごくいいものが出来たので、なるべく楽器でごまかさないようシンプルにしています。
― 今後もシングルを立て続けに発表するとお聞きしました。
くじら:はい。自分が歌う曲については少し曲調を変えてみたり、楽曲に幅をもたせるようにしてきました。ただ5月にリリースを予定している楽曲は、例えば「春を告げる」のような“今までのくじらっぽい”楽曲となっています。今回初めてくじらを知ってくれた方はもちろん、ずっと応援してくれている方も心配せず楽しみに待っていただければと思います。
― 今夏には初の自身歌唱アルバム「生活を愛せるようになるまで」をリリースされるとのことですが、こちらはどのようなアルバムになりそうですか?
くじら:「もっと生活を愛せるようになれるように」といった曲が軸になったアルバムになっています。今までのアルバムよりも、生きることはどういうことかを少し前向きに捉えた内容になっています。日々過ごしていく中で、金銭的に苦しかったり肉体的に苦しいことってあると思うんです。でもそいういったことに気を囚われすぎず受け入れていくことで、生活自体を愛することが出来るようになると感じます。きっとそれは自分を愛することにも繋がるし、他者を愛することにも繋がる。この感覚は人生の目標に近いんじゃないかなと感じます。
― より身近というか、リアルな“生活”というものがテーマになっているんですね。
くじら:そうですね。人と人との関係だったり、生きることについてだったり。今までの楽曲より直接的な歌詞の楽曲も増えてきて、少しだけ人生観に迫ったアルバムになるのかなと思います。
― その人生観はくじらさん自身の想いが込められている?
くじら:はい。アルバムが出来るタイミングは自分の人生観が変わったり、何かに大きく気づいた瞬間だったりするんです。今の暮らしや自分のことが嫌いだった時期が長かったんですけど、それは日々へのヘイトだったり周りのヘイトが無くなってしまうと曲が書けなくなるんじゃないかという不安があったからだと思います。そんな中で「生活が自分の中できちんと土台になっている」と、生活のことを肯定できていると思う瞬間があったことで視界がパッと開けました。
― 楽曲に影響を与えるものが、よりポジティブなものに変わっていっているんですね。
くじら:そうですね。今までは「このまま生きていてもどうしようもない」「なあなあで生きていく」といった内容が多かったんですが、今はもう少し先を見て「ポジティブに生きてみよう」といった自分の中にある愛らしい感情を無視せずに曲を書いてみようと思いました。今後リリースする曲も温かくて柔らかかったり、ハッピーな曲調が多くなると思います。アルバムリリースまでみなさんと一緒にワクワクしていけたらなと思っております。
くじら「夢を持てること自体が素晴らしい」
― 本格的にソロアーティストとしても活動されますが、楽曲提供も変わらず行っていく予定ですか?くじら:あくまでソロアーティストは自分の活動の幅を広げる一つのコンテンツなので、ボーカロイドの活動や楽曲提供はもちろん、歌い手さん招いたフィーチャリングもスパンは変われど続けていくつもりです。
― ソロアーティストとしての活動はくじらさんの中で変化するものもありそうですか?
くじら:今までの曲は人が歌うことを想定していないことも多かったんです。自分に歌心がなかったので、とても歌が上手い方にお願いしてやっとリズムがとれるというか。自分も歌の練習をするようになって、“歌いやすさ”を少し追及するようになりました。もちろん今までのくじらっぽい曲を求めていただければお応えしますし、「悪者」や「四月になること」のような曲も提供していけたらなと思っております。
― 今後のソロアーティスト活動の予定を明かせる範囲で教えていただけますか?
くじら:具体的にお話しできないのが辛いところですが、みなさんが期待しているようなコラボも実現したいと思っていますし、良い意味で期待を裏切るようなアーティストさんとのコラボも随時計画中です。2022年は大きなステップアップの期間として、どんどん色んなことへ挑戦していければと思います。
― ソロアーティストとして活動していく上でライブの計画も?
くじら:はい。僕は元々バンドをしていて、ライブをするのは大好きなんです。自歌唱のアルバムを出そうと思ったのは「ライブをしたいから」という理由もありました。アルバムのリリースライブを、夏の終わりから秋ぐらいに出来たらなと思ってます。
― そうなんですね!音楽活動の中でファンの方の前でライブをすることって今までありましたか?
くじら:全くないんです。SNSにコメントをいただくのはすごく嬉しいんですが、自分にファンの方がいるという実感が湧かないこともあって。色んな方がファンとしていてくれたら嬉しいですね。
― そういった意味でもライブは楽しみですね!それでは最後にくじらさんの「夢を叶える秘訣」を教えていただけますか?
くじら:情報の生産や消費速度が日に日に増している現代で、夢を持てること自体がすごく素晴らしいことだと感じます。僕の周りにも夢や目標を持てない友人は多くいます。夢があるなら「夢を叶えるならどうすればいいのか」「叶えた後はどうしたいのか」に対して真摯に向かって取り組んでいくことが一番大事なんじゃないかなと思います。
― くじらさんが音楽の道を志したのは何かきっかけが?
くじら:小学生の頃から自分はサラリーマンのように働くのは無理だろうなと感じていました。大学に入って就職や生計について考えるような時期になると、「音楽はずっと好きだったから音楽でご飯が食べれるようになりたい」という夢を持つようになりました。でも「夢ってなんだろう?」と思う瞬間が一度あって、音楽で食べたいという“夢”は、夢ではなく目標なんじゃないだろうかと感じました。例えば偶発的に一つの曲がヒットしてしまったら、その後はすごく大変なんじゃないか。「どうやって楽曲を作っていったら需要に応えられる素晴らしい楽曲が作れるのか」ということを逆算して一つずつクリアしていくことで夢へ繋がっていくのかなと思った瞬間がありました。
― 夢を目標に変えて。
くじら:夢を目標と言ってしまうとロマンがないんですけど、「夢が目標」だと気付いた時はすごく前向きな気持ちになれました。「夢が目標になってしまう瞬間はすごく残念」という意見もあると思いますが、それは才能がないことに気付きたくなかったり、もがいていることで自分の尊厳を保とうとしている部分もあるような気がします。でもそれは全く落ち込む必要がなくて、今の自分の立ち位置を理解して「自分がなりたい姿の先にはなにがあるのか」「憧れの人はどういう生活をしているだろう」「どういうプロモーションでここまでたどり着いたんだろう」ということを一つずつ下学(手近なところ、初歩的な事柄から学ぶこと)していけば、夢へ近づけるんじゃないかなと思います。
― より“夢”をリアルに考えるわけですね。
くじら:有り体に言ってしまうと「夢から逃げない」ということですが、夢から逃げないことって一番難しいことなんじゃないかと思います。自分の能力や夢への道のりをリアルに把握した瞬間って結構きついはずです。でも夢があること自体がすごく素晴らしいことなので、悲観的にならず言い訳をせず邁進していったら、楽しい人生になるんじゃないかなと思います。
― ありがとうございました。
(modelpress編集部)[PR]提供元:株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ
くじらプロフィール
2019年4月1日に活動を開始。作詞作曲編曲全てをくじら自身でこなしVOCALOIDを使った作品や、yamaやAdoなどのボーカルfeat.作品、また楽曲提供など精力的に作品を世に出し続けている。2019年7月VOCALOIDアルバム「ねむるまち」を発表。2020年10月には、feat.とVOCALOIDを主としたアルバム「寝れない夜にカーテンをあけて」を発表。
活動歴たった2年にも関わらず、圧倒的な実績を積み重ねる「くじら」。新世代クリエイターとして音楽シーンの高い注目を集めている。
ニューシングル「四月になること」
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