目指したのは「誰もが履けるスニーカー」。トム・サックスが語る、ナイキとのコラボスニーカーに込めた思い

トム・サックス×ナイキより、「ナイキクラフト ジェネラル・パーパス・シュー」の新色“アーカイブ カラー”が登場。英国版『GQ』は、2012年以来、ナイキとのコラボレーションを続けるトム・サックスに、スニーカーをデザインする際のこだわりや、万人に履いてもらうための工夫について訊いた。
トム・サックス ナイキ ジェネラル パーパス シュー GPS

現代アーティストトム・サックスナイキは、10年以上にわたってフットウェアのデザインの境界線を押し広げるスニーカーを共同制作してきた、シューズ業界でもっとも優れたコラボレーションのひとつだ。2012年、サックスとナイキは、新しく立ち上がったナイキクラフト部門から、アポロ11号が月面着陸した際に宇宙飛行士が履いていたオーバーシューズに着想を得たスニーカー、「ナイキクラフト マーズヤード 1.0」をリリースした。そして、2017年には擦れたり汚れたりしやすい素材で作られた前作をアップグレードした、「ナイキクラフト マーズヤード 2.0」を発表した。

当時、サックスは「転売は恥ずべき行為。下品です」と言い、リセール文化を糾弾していた。しかし、今日ではその表現を少し改めている。「誰かに、マーズヤードを飾ったままにしていると言われたら、『それは罪深いことですね』と答えます。あの靴はボロボロになるまで履くためのもので、ディスプレイ用ではないのですから。とはいえ、私はスニーカー収集や取引に反対しているわけではありません。ただ、そうした行為は私にとっては優先順位が低いのだ、ということをみんなに知ってほしいと思っています」

今年6月、トム・サックスとナイキは、もうひとつの先進的なシルエットを持つ「ナイキクラフト ジェネラル・パーパス・シュー(以下、GPS)」を発表した。このスニーカーは、手間をかけず、誰でもどんな場所でも履けるようにデザインされている。スニーカーヘッズの間で評判になるよりも、“履きもの”としてのスニーカーの原点に戻りたい、とサックスは考えていたのだ。

最初に発表されたGPSのアッパーは、落ち着いたオフホワイトを基調にしている。そして、シューズを包み込むように、ガムラバーのミッドソールが配置されていた。唯一のカラーは、2つの青いストラップのみ。ナイキのスウッシュでさえも、白で統一されていた。「このシューズは、私とナイキの17年間の奇跡を表現したものです」と、サックスは英国版『GQ』に語った。「私は、限定品には関心がありません。万人に履いてもらうためのシューズを作りたい、と考えています」

サックスいわく、このスニーカーは意図してレトロな雰囲気を醸し出すように作られているが、2022年現在も、さらにその先の未来でも、あらゆるシーンに対応できるようにデザインされたモダンな靴だ。 「私たちは20足の靴を持つよりも、たった3足の靴を持つべきかもしれません。私が子どものころは、新しい靴と古い靴、そして、本当に古い靴の3足しか持っていませんでした」と彼は続けた。

今回、サックスとナイキは、GPSに大胆なサンフラワーイエローを使った「アーカイブ カラー」を新たに発売する。「色によって、さまざまなストーリーが生まれるようなシルエットを作りたかったのです。基本的には、前と同じデザインです」と、サックス。アーティストとしての過去の作品や、ナイキシューズのプロトタイプが雑然と置かれているニューヨークのスタジオで、サックスはスニーカーへの思いを語った。「スニーカーは彫刻作品のようなもの。そして、靴は私たちが地球とつながる手段として、とても重要な存在です」

それぞれのスニーカーのシュータンの裏には、「Nike craft shoes are manufactured to the exact specifications of champion athletes throughout the world. Nike Craft supports all the activities of your life and tells your story(ナイキクラフトの靴は、チャンピオンアスリートの求める仕様そのままに作られています。ナイキクラフトは、あなたの人生におけるすべての活動をサポートし、あなたのストーリーを伝えます)」という、英文が記されている。サックスによると、これは彼が手掛けたナイキクラフトのプロダクトコンセプトでもあるという。

彼のスニーカーを万人に履いてもらうため、最新モデルを利用して、ジェンダーにとらわれたスニーカー業界の伝統的な仕組みを打ち破りたかった、とサックスは続ける。「靴はすべての人のためにあるべきです。今回のモデルでは、レディースサイズは5から16.5まで、メンズサイズは3.5から15までと、ナイキ史上初めて全サイズを展開しています。レディースサイズを除外することは、靴が家父長制の象徴のようになることに加担します。そこで、このモデルにはレディースサイズも採用したのです」 

ナイキによると、日本では、9月2日からナイキのアプリ「SNKRS」のほか、NIKELAB MA5やDSM GINZAなどで発売予定。レディースサイズ(5から10まで)のみの展開となる。

サックスは、このスニーカーは万人のためのものであり、売り切れても再入荷される予定だと言う。「『4000ドルも払わなければならないのか』と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。このスニーカーは同じ価格のまま、欲しい人なら誰でも手に入れることができます」

From: BRITISH GQ Adapted by Etsuko Yoshikawa


A photo of a pair of green Nike sneakers next to a photo of Virgil Abloh in front of a colorful background
ヴァージル・アブローが警備員のユニフォームとしてスニーカーをデザインした意図について、NYで開催中の回顧展を担当するキュレーターに訊いた。
エアジョーダン1
ヴィンテージデニムの芸術的魅力に開眼した『GQ』の森口。今回は着用50日目リポートの第3回。「リーバイス502E TYPE物」「リーバイス606E」「リーバイス501“66”」「リーバイス551ZXX」「リーバイス501XX革パッチ」の5本を、名作「エア ジョーダン 1」と合わせてみた。
article image
現代芸術家のトム・サックスとナイキのコラボレーション・スニーカーが6月10日に発売される。