日本人が韓国で子育てをしたら。移住した親2人に聞く「海外で暮らし、子育てをすること」のリアル

2024.04.18 21:15
提供:All About

グローバル化した現代、海外で子育てをする日本人はもはや珍しくない。お隣の国韓国で、子育て真っ最中の2人の日本人に、韓国の教育や子どもの生活の様子などについてお話を聞いた。

子育てをするなら田舎か?都会か?という議論は、親なら一度は耳にしたことがあるかもしれない。しかし、グローバル化した現代では、“海外”で子育てをする日本人はもはや珍しくない。

筆者自身もそのうちの1人で、異国の地でときには悩み、ときには大いなる喜びを感じつつ子育てをしている。

今日はお隣の国韓国で、筆者と同じように子育て真っ最中の2人の日本人に、客観的に見た韓国の教育や、子どもの生活の様子などについてお話を聞いた。

心配していた「言語の壁」は実際のところ……

今回お話を聞いたのは、長男(24歳)、次男(20歳)、長女(17歳)の3人の父親Aさん(50代)と、長女(15歳)と次女(9歳)の2人の母親Bさん(40代)だ。AさんもBさんも配偶者は韓国人で、国際結婚家庭だ。

Aさんは10年前、妻の故郷である韓国に家族で移住した。当時すでに就学していた子どももいただけに、移住を決めるにあたり、心配していたこともあったのではないだろうか。

「韓国語も勉強できますし、国際感覚が身につくことを期待していましたが、言葉が分からないせいでいじめられないだろうか……という心配はありました」

現地の言語を習得するという課題に一度は悩んだことのある海外子育て経験者は多いだろう。Aさんも例外ではなかったようだが、

「実際のところ、言葉の問題は心配していたほどではありませんでした。子どもたちはほぼ1年でネイティブレベルになりましたから。僕はなかなか上達しなくて苦労しましたけど」

とAさん。読み書きだけでなく、発音も含めてネイティブレベルなのだから、やはり子どもの外国語習得は速いようだ。

Bさんは結婚を機に韓国に移住した。子どもは生まれたときから韓国で暮らしているので、日本の文化に触れさせることにも気を遣ってきたと話す。

「日本人としてのアイデンティティーも持ち合わせていてほしいので、家庭で日本の季節行事を行っていますし、在韓日本人の仲間たちと一緒に、子どもたちに日本語の本を読み聞かせる会も定期的に開催しています。

冬休みには、日本の小学校に体験入学に行かせているので、どちらの国にも友だちがいますし、異なる文化を尊重することを学ぶ良い機会になっています」

国際結婚家庭であれば、子どもは自然とバイリンガルになると誤解されがちだが、決してそうではない。どちらの言語も時間を確保し、継続して学ぶ努力をしているからできるようになる、ということを補足しておこう。

その上で、2カ国語が話せるということは子どもたちにポジティブに作用しているようだ。

「長男は日本語と韓国語を使ってYouTubeに動画を投稿していますよ」(Aさん)

「韓国は外国語教育に熱心な家庭が多いので、何か1つ外国語ができるということは評価されます。日本のアニメやキャラクターに興味がある子も多く、日本語ができることでうらやましがられたりもします」(Bさん)

続いて、韓国の「学校生活」のリアルを聞いてみた。

“学歴”が重要視される韓国での学校生活のリアル

韓国は就学前から外国語、特に“英語教育”を始める家庭が多い。幼稚園でさえ英語の授業をしない園を探すのが難しいほどだ。

外国語に限らず、あらゆる科目で早期教育を行う家庭が多いのだが、このことは、名門大に進学し、名のある大企業に就職することが成功と考える人が多いからだ。そんな韓国での学校生活はどういったものなのか。

「校則は日本は窮屈感があるけれど、韓国はもう少し自由な感じです。髪型とか持ち物とか、日本ほど厳しくはないですね。でも、学校は本当に勉強だけしに行くところという印象です。運動会などの行事も短時間で終わってしまう。夏休み、冬休みの宿題もないし、工作や自由研究などの課題もありません。

それは子どもたちからするとうれしいことかもしれませんが……。韓国の学校教育は“塾ありき”です。学校のテストも塾で勉強していないと点数が取れないんですよね」(Aさん)

「勉強で忙しくて、勉強以外のことを楽しむ時間があまりとれません。今しかできないこともあると思うんですが……そこに対しては複雑な想いがあります」(Bさん)

先ほど触れたように、韓国では日本以上に“学歴”が重要視される。大学入試の準備に多くの時間を費やせるよう、幼い頃から早めにいろいろな分野の勉強をする。

この「先行学習」をいかに早く進めるかが、受験の勝敗を決めるひとつの要因になるとも考えられており、例えば小学6年生でも、すでに中学1年生、2年生の学習を進めている子どもは珍しくない。周りの環境がとにかく「勉強」であり、みんなが当たり前にできる水準はどんどん上がる。だからやらなければ落ちこぼれてしまう。

このような背景を踏まえても、韓国ドラマや映画などで描かれる学生たちの生活はあながち大袈裟というわけではない。小学生の低学年でも、毎日塾に通っている子どもは多い。帰宅時間も夜10時を過ぎることは珍しいことではない。

「有名大学に進学し、大企業に就職する」という最終的な成功を手にするため、子どもたちは、幼い頃からとにかく勉強で忙しいのだ。

公教育費用の負担は少ないが……“塾費用”が親を悩ませる

韓国の公教育の場ではさまざまな形で子育て家庭に対する支援が行われている。

「学校で使う教材や教具などはほとんど学校側が用意してくれます。中学・高校の制服代も支援が出ます。制服を一式そろえると30万ウォン(※3万3560円)くらいになりますが、それは支援金でまかなえます。給食も無償なのでお弁当を作る必要がないのはいいですね。

親が公教育に介入する必要は年々減ってきていてありがたいです。学校関連の連絡、案内、申請はだいたいネットです。韓国は何かと新しいシステムの導入が早いので、そういった変化についていくのは大変ですが、その点は頑張っています」(Bさん)

ただ、公教育費用の負担が少ない反面、私教育にかかる費用は保護者を悩ませる。

「塾の授業料がかなり高いんですよね。日本の予備校とこちらの授業料を比較したことがあるんですが、韓国は日本の2倍でした」

Aさんがそう話すように、もともと韓国の私教育費は高い傾向にあるが、続く物価高の影響で年々授業料は右肩上がりだ。

2023年の韓国の合計特殊出生率は「0.72」という危機的な数字がはじき出され話題となっているが、深刻な少子化の原因の1つに、子育てにかかる教育費の負担が大きいことが挙げられる。

公教育の場での教育支援は年々向上しているものの、私教育をせざるを得ない環境、社会構造ゆえに、結局親の金銭的負担が軽減されることはないのだ。

なお、多文化家庭を対象にした支援も実はいろいろとある。

「長女は小学生のとき、多文化家庭訪問教育の一環で大学生メンターが学校の勉強などを見てくれたり、一緒に遊んでくれたりするサービスを利用しました。そのとき韓国語の語彙(ごい)がずいぶん増えました。他にもサッカーやオペラのチケットが配布されたり、体育関連の支援では、スピードスケートも習いました。

地域の支援センターや教育庁から、日韓家庭の友人たちと行っている日本語・日本文化教育関連の会に助成金が下りたこともあります」

韓国は今、「多文化人口112万時代」といわれており、全体の人口に対する多文化家庭が占める割合は年々増加している。それに伴い、さまざまな多文化支援政策が打ち出されており、多文化共生社会の実現を目指している。

※レートは2024年4月17日時点

日韓家庭として韓国で暮らすということ

Aさんには男の子の保護者だからこその心配事がある。それは、韓国には徴兵制があり、成人男性には兵役義務があるということだ。子どもが韓国籍を有しており、一定期間韓国で暮らしていれば、満18歳になると徴兵検査の対象者となる。

「長男は韓国の国籍離脱をしているので義務はありませんが、次男は韓国籍を残したまま。今後も韓国で暮らすと決めているのでいつかは兵役に行くことになります」

韓国社会では、兵役を遂行したか否かがその人の社会的評価に関わってくる。たとえ国際結婚家庭でも、兵役の問題は避けられない。

「親としてはそこは胸が痛いですね」とAさんは複雑な心境を教えてくれた。

ただ、「韓国で暮らす上で、いつも壁を作らないように生活しています」と話すのはBさん。韓国の友人たちを招いてたこ焼きパーティーを開いたりと、普段から現地の人たちと積極的に交流している。

「下の子を連れて公園に行ったりすると、そこでもいろいろな人が子どもを構ってくれます。心を開いて壁を作らないようにしています」

韓国は人と人の距離が良い意味で近い。特に小さな子どもに対しては、比較的寛容な社会といえそうだ。筆者も韓国で子育てをしながら、周囲の人たちに助けられてきた。

例えば電車ではよく子どもに席を譲ってもらったし、子どもが泣くと近くにいる乗客が一緒にあやしてくれた。通りすがりの学生が子どもに笑みを向けてくれることはよくあることだ。些細なことかもしれないが、子育てをする母親の立場としては子どもを取りまく温かい視線はありがたい。

また、子どもの教育という部分では、日本とは違う面も多くあり、その中から学ぶこともある。

1つ例を挙げると、韓国の保護者は子どもを褒めるべきシーンでは、それがたとえ人前であってもしっかりと褒める。筆者は過度に謙遜してしまうきらいがあるので、そこは韓国の保護者たちを参考に改善しようと目下努力中である。

Bさんが話すように、韓国に限らず海外で子育てをする上で、「心を開いて壁を作らない」ように生活するかそうでないかで、暮らしや子育ての在り方も随分変わってくるはず。

AさんにもBさんにも共通するのは、悩みや葛藤を抱えつつも、現地の文化を受け入れ、前向きに生活し子育てをしていることだ。子どもたちは、そんな両親の姿からも、きっと多くのことを学んでいるだろう。

松田 カノンプロフィール

翻訳家・カルチャーライター。在韓16年目、現地のリアルな情報をもとに韓国文化や観光に関する取材・執筆、コンテンツ監修など幅広くこなす。著書に『ソウルまるごとお土産ガイド(産業編集センター)』などがある。All About 韓国ガイド。


執筆者:松田 カノン(翻訳家・韓国専門カルチャーライター)

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