アート鑑賞とサービス どこまでやるか、問われるあり方
ラグジュアリーブランドに併設されたギャラリーで、サービスとは何かを考えさせられた話。
「解説しましょうか」
その展覧会はだいぶ前から楽しみにしていた海外のベテラン作家の個展だった。受け付けを済ませ会場へ入ろうとするとスタッフに話しかけられた。「この作品は理解が困難なので、よろしければお先に解説しましょうか?」
通常、美術館やギャラリーのスタッフから、作品の難易度を積極的に示唆されることはない。それは鑑賞者が自分で判断するものだし、鑑賞しないとわからない。外国語テキスト用の日本語訳を用意したり、理解の手助けとなる解説オーディオを貸し出すのとも違う(それらは作家と合意の上で用意され、たいていは鑑賞者が貸し出しを申し込む)。
そんなわけで、作品鑑賞前に解説するという提案に驚いた。これは、個人的な親切?それとも企業側の「サービス」なのか?
そもそも、芸術は学術的分野として確立しているため、キュレーターや評論家、学芸員などこの分野の知識を携えた専門家がいる。作家に加え、美術展覧会ではそうした人たちが中心となる場であり、展覧会場のスタッフはアルバイトであっても鑑賞者に対する接し方を教わる。もちろん、作品に対する敬意と鑑賞者への配慮からだ。
2003年に村上隆氏がルイ・ヴィトンとコラボレーションして以来、日本では芸術(特に現代美術や映像系)領域はファッションシーンと接近した。アートマニアがファッションブランド主催の展覧会場へ行くことも増えただろう。となると、ブランド側は芸術作品を扱う者としての「サービス」のあり方がより問われることになる。
ちなみに、先のスタッフからの提案について作家の意図かと鑑賞後に尋ねたところ、違うという返答だった。
「理解」は必要か
アート鑑賞についてもう一つ思うところは、必ずしも「理解する」必要がなく、感じるだけで十分ではということ。内容がわからなくとも作品から何かを感じることはあり、漠然と気になって調べたくなるのもむしろ作家にとっては望むところかもしれない。
今や、アートやクラフト作品鑑賞を顧客サービスの一環として消費者に提供している企業は多い。大抵は満足することが多いが、過剰な対応やナビゲーションの説明不足などで気になる内容もある。ブランド×アートの流れはますます広がる中、鑑賞者に対するサービスのあり方を再考する必要はないだろうかと、アートファンとして思う。
(編集者・嘉村真由美)
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