美術家と西成のおばあちゃんが作る「ニシナリヨシオ」 “ズレ”で唯一無二の存在感
美術家が大阪・西成のおばあちゃんに出会ったら――「ニシナリヨシオ」は、美術家の西尾美也さんと、大阪市西成区の創造活動拠点「kioku手芸館たんす」(たんす)に集う70~80代の女性たちによって生み出されるファッションブランド。両者の対話から始まる服は、互いのイメージの〝ズレ〟が魅力となり、唯一無二の存在感を放っている。
(金谷早紀子)
1年かけ土台作り
もともとは、大阪市の芸術文化振興事業を請け負った「ブレーカープロジェクト」の事務局(現在は一般社団法人ブレーカーコレクティブ)が、西成区の住民にワークショップを実施したのが始まりだ。第1弾の美術家が編み物を毛糸に戻すワークショップを行ったのを機に、地域の手芸好きの女性が集い始めた。当初はデイサービス施設の一角で実施していたが気兼ねなく集える場を求め、同区・山王にある元たんす店の古民家を活動拠点にした。
西尾さんは16年にワークショップ第3弾の講師として招かれた。西尾さんは、装いとコミュニケーションをテーマに活動する美術家で、国内外に滞在し、住民と対話を重ねながら作品を製作する活動を続けている。まずは女性たちの服作りの固定観念を壊すべく、「音のなる服」など、従来の服作りと逸脱したテーマを投げかけ、1年かけて柔軟な発想が生まれる土台を作った。交流を通して見えてきたのが、女性たちの物作りの原点が「誰かのために」という思いやりから始まっていること。そこで、ニシナリヨシオのコレクション第1弾は、身近な人に向けた服をテーマにした。
誰もが個性生かす
服作りはユニークで、まずは西尾さんが女性たちにお題を投げかけ、それぞれが自分のエピソードと重ね合わせて、対話を通して作り上げる。材料はたんすに寄せられた古着や残布だ。
例えば、パート先の鶏肉屋の女将のために作った「ヤキトリジャケット」(税込み3万8500円)は、やけどを防止するために両腕に約100パーツの細かな布をパッチワークする。アシンメトリーパンツは、片足が不自由な友人が座ったままでもはけるようにと、足首までファスナーが開くデザインだ。商品は全て一点物でパターンは継続し、材料を変えながら出来たものから販売する。18年に製作した服を発表し、阪急メンズ大阪やあべのハルカス近鉄本店で展示販売会を開催。それ以降、商品が売れたりメディアで取り上げられる機会が増え、女性たちの制作意欲も高まっている。
たんすは週2回オープンし、女性たちのよりどころにもなっている。集まる人は手芸が得意な人ばかりではない。経験があまりなければ生地のカットを担当するなど、「誰もが個性を生かし、服作りに携わることができるように」(ブレーカーコレクティブの松尾真由子さん)という考えで、みんなで服を作る。
高齢化の課題もある。地域住民を集めるには限界があるため、新たにNPO(非営利組織)と組み、ベトナム人の技能実習生もメンバーに加わった。西尾さんと1年かけて土台作りをし、プロトタイプ制作に向けて歩み始めたところだ。世代も国も限定せず、様々な人たちがブランドに関わることで、新たな〝ズレ〟が生まれると期待する。
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