令和の酪農危機 需要回復が脱却の鍵(日本食糧新聞・小澤弘教)
乳牛から生み出される生乳(ミルク)は、毎日生産され、腐敗しやすく貯蔵性がない液体。そのため需要に応じて飲用向けと乳製品向けの仕向け量を調整することが不可欠であり、生乳取引価格(乳価)も牛乳やバターといった用途に応じて異なる。乳価は、乳業メーカーと酪農生産者(団体)の合意によって決められるが、需給状況、市場動向、経済環境、生産者らの経営状況などの要因を総合的に勘案して決定する。原則1年を通して変わらないのだが、22年11月には飲用・発酵乳向けが9年ぶりに期中値上げ。その後も23年4月に製品向け、8月に再度、飲用・発酵乳向け、12月にはバター・生クリーム向の価格が相次いで改定された。
酪農家の85%が赤字
この背景には、ロシアによるウクライナ侵攻で、穀物相場が暴騰したことが大きい。生産コストの約半分を占める飼料代に直撃し、酪農家の経営を大きく圧迫している。農林水産省が23年7月に公表した畜産統計でも、全国の乳用牛飼養戸数は前年から5.3%減少。中央酪農会議が3月にまとめた調査でも、酪農家の85%が赤字経営となっており、まさに「令和の酪農危機」と呼べる状況にある。
原料高騰を受け、乳業メーカーも22年から大手を中心に牛乳・乳製品を価格改定。消費物量・数量は減少傾向にある。コロナ禍での健康意識の高まりで機能性表示食品を中心に伸びを見せたヨーグルトも、根強いファンを獲得して右肩上がりに消費量を伸ばしてきたチーズも、各社販売数量では苦戦を強いられている。
調理向けは堅調
生活防衛意識の高まりは消費動向を左右。例えばチーズは、世界的インフレの進行で輸入ナチュラルチーズ(NC)価格が高騰し、プロセスチーズ(PC)の値上げが昨春・秋と相次いで行われた。ただし、消費の中身をみると、NCではシュレッド、PCではスライスといった調理向け商品が、おつまみなど直接消費向けと比べて堅調な伸びを示している。コロナ禍の在宅時間増加で家庭内調理が増えたのは事実だが、現在の調理用途は「締めるところは締める」といったメリハリ消費を反映している。
暗い話題が多い酪農・乳業界だが、光明もある。アイスクリームは観測史上最も暑い夏となった23年、大きく市場を拡大し6000億円規模に迫る勢いだ。価格改定しても手軽に買えることや、各社の効果的なコミュニケーション戦略が、消費者をつかんでいる。牛乳・乳製品の消費拡大に向けたイベントも活発になり、これまでにないインバウンドを対象にした活動も増えた。出口需要の開拓が、生乳生産基盤の維持発展につながる。
(日本食糧新聞・小澤弘教)
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