橋本愛

橋本愛、“心臓にレモンを搾った”ような刺激を映画史に刻む【てれびのスキマ】

2022.06.01 05:30
橋本愛

■「目指す前になってました」

橋本愛は自身のSNSでファンからの「女優を目指すきっかけは?」という質問にこのように答えた。事実、芸能界入りのきっかけは、2008年、中学1年生の頃にミーハーな母が「三姉妹の中で一番顔が濃いから」という理由で勝手にオーディションに応募したことだった。そこで「ちょっと歌を歌って、あんまりやる気のない質疑応答」をしていたらグランプリに輝いたのだ(「週刊文春」2015年1月1日・8日号)。モデル、歌手、役者…どれも興味がなく、当初はこの仕事を続けていくというモチベーションはしばらく持てなかった。

だが、2010年、映画「告白」で注目を浴びると、2012年に公開された「桐島、部活やめるってよ」で日本アカデミー賞・新人俳優賞優秀賞を受賞。同世代の実力者たちが数多く出演した映画だったこともあり、世代を代表する役者のひとりと目されるようになった。それでもこの頃の橋本は、「『私は女優じゃない、役者だ』みたいな、中性的であろうとしてた。それは感覚としてですけど、自分のやる役が男性目線というか男性の中の幻想とか実体ではないような女性の役をやることがあって。自分の職業を言うのが、どの言葉も当てはまらなくて、女優、俳優、役者、演者、表現者…、全部違うんですよね。腑に落ちるのはなかなかないな」(「SWITCHインタビュー 達人達」2022年4月11日NHK Eテレ)と思い悩んでいた。

そんな中で、彼女の名前を世間に一気に知らしめた作品といえば、何と言っても宮藤官九郎脚本の朝ドラ「あまちゃん」(2013年NHK総合ほか)だろう。能年玲奈(現・のん)扮するヒロイン・天野アキの親友でアイドル志望の美少女・足立ユイを演じ、2人のユニット「潮騒のメモリーズ」としてその年の「NHK紅白歌合戦」(NHK総合)にも“出場”を果たしたのだ。宮藤の脚本の中にある「変態性」に惹かれたという彼女は、この頃からよりトガッたカルチャーに傾倒していく。「あまちゃん」で共演した渡辺えりは橋本がずっと控え室で小説を読んでいたことを明かした上で「映画なんでも観てるから京マチ子も知ってるんですよ」「だから、昔の西高演劇クラブの同期としゃべってるような感じ」「劇作家協会にも入るんじゃないかみたいな作家タイプ」(「スタジオパークからこんにちは」2013年6月10日)と評している。

中でも“日本映画界の異端児”と呼ばれる石井隆が男女の愛憎劇を撮った「人が人を愛することのどうしようもなさ」(2007年)を観た橋本は映画にハマり、18歳になると新橋ロマン劇場に通い続けロマンポルノやピンク映画を漁るように観るようになった。「女番長(スケバン)ブルース」(1971年)を見てスケバンの挨拶の研究までしたという。そうして役者をずっと続けていきたいと思うようになり、こう強く決意した。

「映画史を汚したくない」(「週刊文春」=前出)

橋本のカルチャー好きは映画に留まらない。お笑い好きとしても知られ、ハリウッドザコシショウの単独ライブに毎年のように行っていることも自身の連載で明かしている。その感想を「性根がタブーを好むところに非常に通じるものを感じました」(「POPEYE」2017年10月号)、「しつこさの限界点を掌握していた」(同誌、2018年10月号)などと鋭い感性で綴っている。彼女の類まれな言語感覚と表現の巧みさがうかがえる。それは「言葉にできない、そんな夜。」(2022年4月8日NHK Eテレ)に出演した際にも発揮された。たとえば「サザエさんが年下なことを知ったときの気持ち」を「彼女は不可逆な時間の中で、つっかえ棒のようにして立っている。その距離が開いていくほど、どうしようもなく焦ってしまう」と独特な語彙で表現し、「懐かしい音楽を聞いたときの気持ち」を「レモンを搾った感じなんですよね、心臓に」と絶妙な形容をして、小説家や作詞もするミュージシャンなど言葉のプロもいた共演者たちを驚かせた。それは日々、トガッたカルチャーを吸収し続けてきたからこそ得られたものだろう。

言葉が好きで「こう思うことでこんなに生きやすくなるんだって」「言葉によって救われてきた」(「SWITCHインタビュー 達人達」=前出)という橋本愛は、言葉を大事にすることで繊細な演技で、“心臓にレモンを搾った”ような刺激を映画史に刻んでいるのだ。

文=てれびのスキマ

1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌やWEBでテレビに関する連載多数。著書に「1989年のテレビっ子」、「タモリ学」など。近著に「全部やれ。日本テレビえげつない勝ち方」

※『月刊ザテレビジョン』2022年7月号

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