T部長・土屋敏男さんに聞くテレビ(前編)〜テレビはこれから起ころうとする何かを映すもの〜 インタビュー:テレビを書くやつら

土屋敏男さん、と聞くと「ターンターンターンタータターン!」とダースベイダーのテーマ曲を口ずさんで「T部長だよね」と言う人は多いだろう。90年代に一世を風靡した日本テレビ「電波少年」で自ら芸人に過酷なミッションを告げるプロデューサーとして知られている。前回、テリー伊藤さんにお話を聞いた続きは土屋さんしかいない!と編集会議で盛り上がり、読売テレビの「読みテレ」としては半ば身内ながらインタビューした。これが相当面白いテレビ論になったので、ぜひお読みいただきたい。
【聞き手/文:境 治】
「元気が出るテレビ」で学んだ「番組はひとりでつくるもの」
境治(以下、S):前回のこの連載でテリー伊藤さんにお話を聞いたのですが、テリーさんがやっていた「元気が出るテレビ」から土屋さんがやっていた「電波少年」に連なる共通するものを感じました。土屋さんは「元気が出るテレビ」にディレクターで参加されてたんですよね?
土屋敏男氏(以下、T):ぺーぺーのD(ディレクター)でした。番組はひとりでつくるものだと、「元気が出るテレビ」で学びました。合議ではまったくないんですよ。作家さんが10人くらいいて企画を3~4枚ずつ出すので何十枚もの束になる。それを伊藤さんが、これは面白い、これは面白くないとさばいていく。これは次回やろうと決まったらDが割り振られる。伊藤さんが面白いと思ったことをやるわけです。これからインドが面白いんじゃないか、と言ったら「ガンジーオセロ」が生まれた。「熊野前商店街」も伊藤さんの友だちのお父さんがそこの床屋で、人が少なくなって今で言うシャッター商店街になりかけていた。そこを元気にしようという企画。伊藤さんに身近な、半径2~3メートルの題材で決まっていく。それが面白いわけです。ワイドショー班からバラエティに移ってまだ何にもわかんないひよこが、初めて見たからこれがテレビの作り方だと刷り込まれちゃった。
S:最初はコント番組をやろうとして自分が向いてないと気づいたとテリー伊藤さんはおっしゃってました。
T:そう、風林火山商事の社名でたけしさんが社長、松方さんが部長でと設定は残しつつ、早い段階でロケバラエティ中心になりました。現実の世界をテレビがいじろうとするのは初めてだったと思います。ロケバラエティという言葉もなかったですし。「電波少年」をやる時にはドキュメントバラエティと言い張った。いまは欧米からリアリティショーという言葉が来て収斂されつつあるけど元々はドキュメントバラエティと言っていて、その原型が「元気が出るテレビ」でした。
よりリアルになった「電波少年」のアポなし
S:土屋さんが書かれたnoteに、ENG(手持ちカメラ)が出てきて可能になったとありました。
(土屋氏のnote T部長のピックアップ「ドキュメントバラエティとリアリティショー」)
T:ロケに使うカメラと言えばフィルムだったのが、シブサン(3/4インチのビデオテープ)で20分撮れるようになりました。それまでのバラエティはスタジオでやるもの。「シャボン玉ホリデー」もそうだし、アメリカの「サタデーナイトライブ」もそうですね。それが、現実との関わり方になっていった。「お嬢様を探せ」の企画で足立区に行ったり田園調布に行ったり。それから「早朝バズーカ」のようにナンセンスとリアリティを強引に結びつけた企画も出てきた。リアルな場でコントをやるわけです。「電波少年」ではさらにリアルになった。「元気が出るテレビ」の「お嬢様を探せ」では足立区に行ったけどお嬢様はいませんでしただと企画としてはナシでした。「電波少年」では行ったけどいませんでしたを、ありにしたわけです。「アポなし」の手法を見つけました。そこが、よりリアルになった。ダメはダメのまま出す。それまでは事前にプロデューサーが交渉していたので、こんにちはと入ったら中でカメラが受けていたわけです。そうではなく、カメラないしタレントが一番前。
S:「元気が出るテレビ」の次をやろう、と考えて「電波少年」をはじめたんですか?
T:何しろ「元気が出るテレビ」の手法しか知らなかった。その前はワイドショーで、ロケやった時に前に行き過ぎて警察に怒られていた。その経験から、怒られるテレビをやろうと自覚しはじめたのでしょう。ただ企画の段階ではそこまで覚悟があったワケではなく、熊野前商店街に近い、自分の身の回りの感性で始めたのはありました。やってたことは、いまで言う迷惑系YouTuberみたいなことですね。
S:ネットで何かやってる人たちは「電波少年」の影響を受けているようです。バーチャルなスタジオとタレントさんをジャギジャギな合成で見せるのも強烈でした。
T:テレビを作る時は美術打合せからはじまります。中身が決まってないのに美術打合せをすることになる。企画が決まってないからセットも何もない。それじゃあ当たり前のことしかできない。だったらCGでセット作れば、そこにいるように見えるんじゃないかと妄想しました。妄想で番組を作るのはそのあと基本になりました。去年やった「NO BORDER」も打合せではわかってもらえず、でもやってみたらこういうことかとみんなわかってくれました。
NO BORDER
S:「電波少年」がいまの「世界の果てまでイッテQ」にも連なっていっている気がします。T:「イッテQ」の古立(イッテQの企画演出、古立善之氏)もぼくのところに何年かいたやつなので、やり方は似てるとも思うし、でも古立っぽさが出ています。やり方やこだわり方は似てるんじゃないかな。「夜ふかし」(「月曜から夜ふかし」古立氏が担当する深夜番組)は「イッテQ」とちがう彼のブラックな部分が出ています。
ぼくも「電波少年」やりながら「ウリナリ」は金曜8時っぽいことやったし「雷波少年」は日曜午前っぽいことやった。使い分けた別々のものだけれども、元は自分だし古立なのです。「人の数だけ番組はある」のが正しいと思っています。
テレビとは何か、「皇太子ご成婚パレード」での発見
S:「元気が出るテレビ」から「電波少年」、そして「イッテQ」への連なりを見ていくと、テレビの結論は丁寧に作り込むかどうかより、どうなっちゃうのかを見るメディアなのかという気がしてきます。
T:その観点で言うと、「元気が出るテレビ」の前に、欽ちゃん(萩本欽一氏)の発見が大きいと思います。映画とテレビは何が違うか。映画は完成されたものを映画館で見せるのに対し、テレビはこれから起ころうとする何かを家のテレビに映す。
それは「皇太子ご成婚のパレード」(1959年、いまの上皇様と上皇后様のご成婚のパレード。テレビの普及をうながした出来事と言われる)でもわかります。当時の日本テレビで総合演出をやった牛山純一が、うちのカメラだけ下に置いたんですよ。NHKとTBSと日本テレビが中継する時、お二人が乗った馬車が写るからみんなビルの上から撮りたいわけです。コースの取り合いになってビルの上を確保するんですが、二日前に牛山純一がカメラを下に下げろって言うんですって。馬車が映らなくなるのに、日テレは下で撮るんです。空の道路が映って、アナウンサーが「間もなくいらっしゃいます、間もなくいらっしゃいます」と絶叫し続ける。何も映ってないんだけどこれから起ころうとする何かが映るからみんなが見てくれる。これがテレビだということが発見されるんですね。これはあとからぼくが勝手に分析して言ってることなんだけど。
これがテレビなんですよ、そしてこれが浅間山荘なんですよ。(1972年の浅間山荘事件で、これから機動隊が突撃する前の何も起こらない映像を日本中が凝視したのを見て、萩本欽一氏が「これから起ころうとする何か」を見たがるのがテレビの本質と発見し、素人を起用したコント番組で大成功する)
テレビは「これから起ころうとする何か」を映すものだと発見したのが萩本欽一で、それが「元気が出るテレビ」につながりいまにつながる。テレビとは何か、ぼくはそれが本質だと思ってます。もちろんスタジオバラエティとか笑いとかドラマもありますが、生中継は「これから起ころうとすること」を映すものなんです。
ただ、いまデバイスの主流はスマホになりました、プッシュしてくる時代です。そこでコンテンツは変わるはずですが、インターネットとは何かが発見されてないと思ってるんですよ。インターネットはGoogleにしろFacebookにしろ、どれもこれもビジネスや利便性へ向かってきました。でもコンテンツクリエイティブ、エンタテインメントとしてのスマホないしインターネットは発見されてないと思っています。
S:でもネットでも土屋さんは15年くらい前に第2日本テレビで、「アースマラソン」をスポンサーつけてやってましたね。
T:アースマラソンではテレビでできないことをやろうとしました。デイリーで、今日間寛平さんはここを走っています、ということを、その日に編集して世界中のどこかからYouTubeにあげてそれを世界中で見てもらう。そんなモデルはテレビではできないわけだから、インターネットでしかできないことをやったつもりですけどね。あれで終わっちゃったかな。
S:他は続かなかったですね。
土屋さんの「これから起ころうとする何か」が本質だとのテレビ論が筆者は大好きなのだが、牛山純一氏のご成婚パレードの話は初めて聞けたこともあり、あらためて面白かった。前回聞いたテリー伊藤氏の話とも繋がる。そしてここでその話をしてもらったもうひとつの理由は、その延長線上に「これからのテレビ」はどう導き出されるのかを聞きたかったからだ。それは後編にまとめたので、ぜひ続きを楽しみにしてほしい。

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